第6話 無断外出

冨田レイ…。


昨日、色々と聞いておけばよかったと思うことが後から次々と頭に浮かんでくる。


ったく、俺が目を覚ましてからすぐに帰りやがって。


少し苛立つ気持ちを抑えようと、窓を開けた。俺の病室は病院の出入り口の上にあるんだけど、ちょうど篠原が病院の敷地内に入ってこちらに向かってくるのが、窓の外から見えた。


篠原に付き添ってもらって、外に出よう。いい加減この病院の中で暮らすのはうんざりだ。


俺は病室を出てエレベーターを降り、受付に向かう。


ちょうど篠原が受付のナースと話してるところだった。俺は篠原とナースの会話に割って入る。


「外出許可もらっていいっすか?」


「いいですけど、1人同伴でないと…」


「この人が同伴者です」


俺は篠原の肩に手を置いた。篠原は嫌がってすぐに俺の手を振り解く。


「ちょっと、勝手に…」


「お願いしまーす」


と松葉杖を持ってない手で、篠原の手を引く。


「病院周辺だけですよー?」


「はーい」


ナースに背を向けながら適当に返事しておく。


外に出たら、日差しと風が気持ちよかった。それもそのはず、今日は確か5月3日だし、年間では比較的過ごしやすい時期だ。世間はゴールデンウィーク。


だからかもしれないけど、病院の外もいつもより人がいる気がする。


俺達は病院の敷地内の庭を歩いた。ここの病院、城かってくらい広い庭があって、しかもちゃんと綺麗に手入れされてる。


少し歩いたら、でかい木の下にちょうどいいベンチがあった。


そこに座って、大きく息を吸い込んで伸びをしたら、なんだか今抱えてる悩みがちっぽけに感じる。


「篠原」


「なんですか?」


篠原は思いっきり伸びをする俺の隣で上品に腰掛ける。


「ありがとな。毎日来てくれてよ」


「なんですか、いきなり!」


篠原は顔が真っ赤になった。可愛いやつだな。


「いや、冗談抜きで感謝してんだ、俺は。篠原が毎日来てくれて、俺の話聞いてくれてたお陰で、心が楽になったんだ。篠原がいなかったら、俺は今頃…」


「何言ってるんですか!」


いきなり篠原がベンチから勢いよく立ち上がり、俺は少し面食らった。


「退院しても記憶が戻る訳じゃない。貴方の試練はこれからです。でも、断片的ではあっても、記憶を戻す術がある事はわかりました。記憶をできる限り取り戻しつつ、今の貴方が不自由ない学校生活を送れる様に、これからも全力でサポートします!」


「それも生徒会長の仕事だから、か?」


一瞬、篠原は口をつぐむ。篠原が口を開くまでの間に、爽やかな風が俺達を突き抜けていった。


「…もちろん、そうです」


「よし、じゃあ決まりだな」


「何がですか?」


「病院の外に出よう」


「は?」


「だーかーらー、病院の!外に!出るんだよ!」


「…ダメです、絶対ダメ!さっきも看護婦さんに言われたでしょう?病院周辺だけだって!」


「記憶を取り戻すには、脳に刺激を与えねぇと。いろんなところに目で触れたら何か思い出すかもしれない。サポートしてくれるんだろ?」


「だろ?って…。この間も急に意識失ったって、受付の看護婦さんが言ってましたけど?」


「篠原がいれば大丈夫だって!それに黙ってりゃバレないよ。よーし、じゃあいくぞ!」


俺は松葉杖だけど渾身の力で篠原の手を引っ張った。篠原は長い間抵抗したけど、病院の近くにあるショッピングモールで1時間程度ならば、と最後には渋々了承してくれた。


「少し楽しんだらすぐに帰るって約束、忘れないでくださいよ?」


「わーかってるって!生徒会長さんはお堅いなー」


ショッピングモールの中はゴールデンウィークの為、中々混み合っている。


カフェやアイスクリーム、ドーナツの店等、美味しそうだが、今は並ぶ時間がもったいねぇ。


俺は近くにあったフロアガイドを見た。


ふむ…あそこしかない!





「ここで遊ぶんですか?」


篠原は呆然としていた。


「まぁ気持ちはわかるぜ。生徒会長はゲーセンとか行かなそうだもんな」


俺はワクワクしながらゲームセンターの中に入る。


「なーにやってんだよ!早くいくぞー!」


「ま、待ってください!」


母さんから預かっていた緊急時の金は10000円。まぁそのうち3000円くらいは使っても大丈夫だろ。


手始めにまずはメダルゲーム。だが、すぐにメダルは吸い込まれていったので、やめにした。


篠原は終始モジモジしていた。こういうとこ、苦手なんだろうな。


せっかくだから、ガンシューティングゲームに誘った。


「こう…ですか?」


「おぉ!中々うまいじゃん!」


まさかの2人で最終ステージまでコンプリート。笑


その後もスポーツカーのレースゲームやエアホッケー等、2人で満喫できるもので遊んだ。


「ゲームセンターって、久々に来てみると結構楽しいものですね」


「最初あれだけモジモジしていたのに、気付けば楽しんでんじゃん」


「モジモジなんかしてません!あ、あのぬいぐるみ、フワフワしてて可愛い」


篠原はUFOキャッチャーの中にある、よくわからん毛むくじゃらのぬいぐるみを指差した。


あれ、可愛いか?


「よし、今日は篠原に付き合ってもらったから、俺が取ってやるよ」


「本当ですか?やりましょう!」


んー、近くに来てみると意外にサイズ感あるな。こりゃ500円突っ込んだ方がいい。100円ずつ入れるより1回分お得だし。




ところが、なんと1回で取れてしまった。


凄いです!と篠原も興奮気味。いや、残り5回分どうすんだよ。


結局、2つめのぬいぐるみも取れちゃった。流石に残り5回分、全部使い切ったけど。


すると、俺のUFOキャッチャーの様子をずっと見てた5歳くらいの女の子が


「パパ、私もあれ欲しい〜!」


と隣のお父さんらしき人にゴネだした。


「さっき何回もやったけど取れなかったろ?別のぬいぐるみ買ってやるから」


「嫌だ、あれがいい!あれが欲しい〜!」


あーあ、お父さん可哀想に。


俺はその様子を横目で見てたけど、篠原はその子のところに歩み寄っていった。


「はい、これあげる」


篠原…。


「えー?いいのー?」


女の子は目を輝かせて篠原を見る。


「うん、いいよ。大事にしてあげてね」


「ありがとう!!」


篠原はその子に向けてニコッと笑い、こちらに戻ってきた。


「いいのか?お前も欲しかったんだろ?」


「いいんです。あの子の笑顔が見られたから」


きっと、篠原のこういうところが生徒会長に選ばれる理由なんだろうな。


「そろそろ1時間だし、帰るか」


そう言ってゲームセンターを出ようとした時、


「お姉ちゃん、お兄ちゃん!」


とさっきの女の子が声をかけてきた。


「さっきからずっと見てたけど、ラブラブだね!」


いきなり何言い出すんだコイツ。


「いや、俺達、付き合ってるとかそんなんじゃ…」


「プリクラ撮った?」


「へ?」


この後、大変な事になるのであった。





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