第3話 女子マネージャー

この間のあれは一体誰だったんだ?


気のせいでなければ、ドアの後ろに人影の様なものも見えてた。俺達の会話を聞かれてた?


あの時、地面に転がっていたみかんを頬張りながら考える。


今日で意識が戻ってから3日。いい加減病院も、車椅子も飽きてきた。


足の回復は順調な様で、今日でギプスも取れて、いよいよリハビリが始まる。


まぁ1ヶ月気を失ってた事を考えれば、1ヶ月以上はギプスを巻いてた事になるから、そこまで劇的な回復を遂げた訳ではないか。


「先生、俺はいつから学校に行けるんだ?そろそろ退屈でよ」


「んー、あともう1週間はここにいてもらえるかい?」


「1週間か、なげぇな。そういえば昨日、篠原以外で俺と面会しにきた人っていんのか?」


「どうして?」


「昨日、篠原と面会中に誰かが病室の外に隠れてたんだ。ちょっと気味悪りぃから、先生何か知ってるかなって思って」


「あぁ、昨日の夕方頃かな?確かに篠原さん以外に1人、貴方に面会しに来てたわよ」


美人ナースの姉ちゃんが代わりに応えてくれた。ギプスを切るカッターを先生に手渡しする。


「やっぱな。誰なんだ?多分名前聞いても忘れてるだろうけど」


「えーっと確か…浅野蘭あさのらんって言ってたかな?面会記録に確かそう書いてた様な…。七南の制服着てたから、多分山岡くんと同じ高校だと思うけど」


浅野蘭…。やっぱり記憶に無い。なんで浅野は、あの時面会せずに帰っちまったんだ?


「はい、ギプス取れたよ」


「おぉー、いとしの俺の右足よ!元気だったか〜?…ってクッサ!!」


右足にキスしようとしたら激臭が鼻をついた。


「そりゃそうだよ、ずっとギプスで固定してたんだから。さぁ、足を洗ったら早速リハビリを始めよう」


リハビリにはナースの姉ちゃんがついてきてくれた。理学療法士のおじちゃんにバトンタッチするまでだけど。


「じゃ、頑張ってね」


姉ちゃんとバイバイしたら、リハビリ開始。思った以上に足は言うことを聞いてくれなかった。着地の瞬間に力が抜ける。


歩行だけでこんなに体力使うなんてな。今日に限らずだけど、ここ3日で五体満足のありがたみを痛感してるわ。


クタクタで病室に戻ると、そこにはまた面会者がいた。また見覚えのない女の子。おいおい、俺はどんだけモテモテな人生送ってきたんだ?


しかもこれがまた結構かわいい。スラっと背の高く美人の篠原とは対照的で、小柄でショートカット、小動物系の顔。ってかもしかしてコイツが浅野蘭か?


「具合はどうですか?」


「あぁ、最悪だな」


「そうですか。…最悪っと」


と呟きながらメモし出した。


「なんでメモなんかとってんだ?」


「女子マネージャーとして、当然の務めですから!」


「女子マネージャー?」


「そうです、1ヶ月意識を失って忘れちゃったんですか?」


「あぁ、忘れたね」


「ひどーい!」


なんだかダルいな、コイツ。まぁいい、初日と違って、記憶喪失のことも随分受け入れられる様になってきた。事実を話してやるか。


「残念ながら忘れたのは本当だ。意識を取り戻したのはよかったが、過去の記憶全部ぶっ飛んじまってよ。あんたが誰なのかもわからない」


「え…記憶喪失…?」


「まぁそれが普通の反応だよな」


「私…どうすれば…」


「別にどうもしなくていいよ。でも色々過去の話を聞かせてくれるとありがたいかな」


「わ、わかりました!では、まずは私の自己紹介から。二宮美紗にのみやみさと申します!この春から、陸上部のマネージャーをさせていただく事になりました!」


って事は俺は陸上部だったのか…。そういえば篠原も、俺が部活動停止になったとか言ってたな。ってかお前、浅野蘭じゃねーのかよ!


「ちなみに私がマネージャーになろうと思ったのは、山岡先輩がいたからです」


「つまり俺の事が好きだったと?」


「か、勘違いしないでください!私は先輩の走りを見て感動したんです。中学の頃から、ずっと先輩の活躍を見てて…、この人どんな練習するんだろって。近くで見たいなって思ったんです」


「へぇ。俺、そんなに足速かったんだな」


俺は机に置いてあったお茶を口に運ぶ。


「えぇ。高校1年時には、東海地区の新人戦で2位に入ってます」


ぶふぅーーー!!!俺は茶を吹き出した。


「え?俺、そんなに凄かったの?東海地区っていやぁ、愛知、岐阜、三重、静岡って事だろ?」


「えぇ、そうですよ。だから顧問の先生も先輩に期待してて、学校生活に復帰するまでは、定期的に病院に行って体調確認する様にって言われてるんです」


「なるほどね。けど走ってた記憶も失って、1ヶ月もベッドにいた様な奴が、またそこまで走れる様になるのかね〜?」


「なります!私がさせますから!…だから、絶対部活辞めるなんて言わないでくださいね…」


二宮は目を少し潤ませて俺を見る。正直かったりぃけど、こんな目で見られたら断る訳にもいかねぇだろ。


「わーかったよ!ちゃんと復帰する!約束する!」


「本当ですか!?わーい!」


ガキみてぇな喜び方だな。


「ところでよ、浅野蘭って知ってるか?多分同じ高校なんだけど」


「んー、知りませんね。私もまだ入学して2ヶ月足らずですから、あまり人の名前覚えてなくて」


「そうか」


「もしかして…彼女さんですか?」


「ちげーよ!…多分」


「あー!やっぱりそうだ!先輩、マネージャーの私に隠し事してる!」


だからちげぇって…。まぁいいや、とにかくコイツは浅野蘭の事は知らないらしい。







「じゃあ先輩、私は帰りますので」


結局、最後の方は二宮が喋りたい事をひたすら喋って帰っていきやがった。なんて勝手な奴なんだ。あいつ、マネージャーとしてやっていけてんのか?


にしても、浅野蘭の謎は今日も解けなかった。まぁ意識が戻ってから、毎日の様に何か起こるし、そのうちわかるだろ。


今日も疲れた。夕飯食ったら早く寝よ。










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