結婚!?

 味は––しょうゆベース?少し辛い。

 ドロドロになった俺を見て、センリはゲラゲラと笑う。

 大真の方は……何も見えないし、声が聞こえないのでわからない。

 

 「いやぁ~面白いねぇ~!!」

 「……おい、マジで最悪」

 「ごめんね!……んじゃ、空君は一度着替えとか諸々してきて!」

 センリの中の人––千里はそう言うと、鈴さんが俺の背中を押し退場させた。

 ……目隠しはそのまま?怖いんだけど。

 「もう少しだけ待っててくださいね?」

 わざわざ耳元で囁くように言う鈴さんの言葉と共に––台車のようなもので、退場させられた。

 

 そこからは、俺はスタジオにシャワーも完備しているとのことだったので服と一緒にシャワーを浴び、千里達が用意していたのだろう量販店で売ってそうな無地のジャージと下着を用意してくれていたのに袖を通した。

 ……あまり言いたくないけど、何でサイズとか知ってるんだよ。怖い。


 「あ、もう帰ってきた!流石、男子!」

 「お前、マジで止めてくれよ」

 「ま、ま、酒でも飲んで語ろうじぇ!?」

 髪の毛も乾かさないまま出てきた俺を––センリと鈴さんは酒を飲みつつ出迎えた。

 「あれ?大真は?」

 「んー、今企画でお買い物に行ってる」

 「……そっか」

 「天の声も飲んでるからさ!飲もう!」

 あれ?まだ配信中だよな?

 スタッフも苦笑いしつつ、この配信を見守ってるし……。

 「……あんたら、デビュー配信だぞ?」

 「君に言われる筋合いないよ~!アキバで私のプラカード持って色々としたじゃん?」

 「……おい、言っていいのか?」

 「んえ?」

 「……バレるぞ?」

 「あ~……いいの、いいの。声優事務所も公認なんだし」

 「ってことは?」

 「空君いないときに改めて大真ちゃんと全部話したよ!」

 「マジかよ」

 「本当はね~、空君がいる時にしたかったけど~……ほら、大真ちゃんのためだから!」

 「大真の?」

 言っている意味がわかんないですけど……ってか、鈴さんウオッカとか飲むの止めてください。

 「そうそう。まあ、もう少ししたらわかるんじゃない? ってか、こっちで飲もうや!声優の話とか皆だって聞きたいだろうし!」

 「……あー、俺が声優の専門学校行ってた事も言ったのか」

 「もちろん!」

 センリはそう言って、俺に近くにあった季節限定の酎ハイを渡してくる。

 これ、飲まなきゃダメなの?

 「まあ、じゃなきゃ俺と千里……あ、センリと一緒に行動している意味わかんないもんな」

 「そういうこと~!ってか、呼び名くらい覚えて!」

 俺と大真は本名から取ってるけど、千里は本名をもじってるから言いにくいんだよな。

 それに名前さっき知ったんだから言いにくいだろ?


 俺はもらった酎ハイを一口つけ––絡み酒が加速するセンリと……強い酒を飲んでベロベロ状態の天の声の看病をする羽目になった。

 俺が返事をしないもんなら、女装生主時代の暴露を始めるし。

 鈴さんは鈴さんで、俺の性癖がどこなのか勝手に予想して語りだすし……助けて、スタッフゥ!

 「……ただいま、なにこれ?」

 俺が困り果て、スタッフは助けようもしない状態の中、声が聞こえた。

 「おぉ~!大真!!」

 絡み酒が野球で例えるなら––9回ツーアウト満塁のサヨナラのチャンス!……ってぐらいの盛り上がり状態の中、ストッパーの大真が帰ってきてくれた。

 「……はあ、センリさん。これでいい??」

 「おぉ!!これこれ!! じゃ、これを空君にプレゼントしてやって!」

 「は!?」

 「この企画はそれで完成なので~っす!」

 センリはそう大きな声を出し、大真を俺の前へと押し出す。

 デビュー配信だよな?なんだこれ。

 ……何でもありになっているこの現場に困惑している俺。

 そして、買い物にいかされ“コレ”を俺に渡すように指示され困惑する大真。

 それを見て、ドヤ顔するセンリ……と、酔っ払いの鈴さん。

 混沌としている状況の中––大真は無言で俺に物を渡してきた。


 「はいっ」

 「……本?」

 厚いビニール袋に大事に包装されているが、厚さや大きさが“本”だということは認識できた。

 多分、この大きさは雑誌……?

 俺は大真から受け取ると、ビニール袋に手を入れて取り出した。

 それは、特定の条件を持った人しか買わない––そんな雑誌だった。

 「ゼ、ゼク〇ィ?」

 「え!?」

 ……あれ?大真も知らなかった?

 俺と大真が“これ、どういう状況?”って顔と雰囲気を醸し出している中––

 「さ!!結婚配信するよ~!!」

 センリはそう言って、宴を再開させた。

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