放送事故と暴走中
「げぇぇぇぇっぇ!!!んっぷ…………あぁ~……み、水……」
配信というのは––お花摘みに行く際にはミュート機能というのを活用するのがデフォだ。
でも、配信業界というのは“あえてのミス”と“本気のミス”という放送事故が存在もする……つまり、これは後者だ。
だって、マジで需要ある?新人Vの嘔吐ボイス。
千里のVtuber姿––センリはコマーシャル中に嘔吐しているのだが、コマーシャルのセンリは可愛いポーズを何個も取っている。
つまり、笑顔で嘔吐しているのだけど……カオスすぎる。
俺と大真は、コマーシャル中に配信の方を覗いて––こんな状況なので後悔した。
「なにしてんだよ……やば、もらいそうになった」
「……カオスだね。これ」
俺らは、鈴さんからもらったオレンジジュースの酸味が上がってくるのを、グッと堪えて、センリが帰ってくるのを待った。
あの嘔吐ボイスから約5分。
センリはケロっとした表情で鈴さんと共に帰ってきた。
「いや~、凄い凄い!ちゃんぽんって本当にダメだよね!緊張してると尚更ね!」
「ご迷惑をおかけしました」
センリの代わりに––鈴さんが俺やスタッフに深々と頭を下げ、センリは配信に戻る準備をしていた。
「っし!じゃあ、いっちょやってみっかー!!」
……おい、マジで大先輩のマネしてバレたら怒られるぞ。
「あ~、あ~……吹雪っちとは通話繋がってる?」
「ども~!……あれ?まだCM中だよね?」
「多分?」
「嘔吐してるの聞こえたけど、大丈夫なの?」
「あ~、大丈夫大丈夫。そこにいる空君の方がヤバいから」
「は!?」
センリと吹雪さんの会話だから入るつもりなかったのに、俺の名前出すなよ。
……ってか、配信再開しないのかよ。
「……あっ、なんか配信帰ってきたみたい!やっほ~!」
締まらないコマーシャル明けをしてしまったセンリは––悪びれる様子もなく手を振って、配信を見てくれる人達に笑顔を振りまいている。
……こんな配信なのに、もう10万近く閲覧者いるとか……凄いな。
「––ってなわけで、最初のゲストきてまーす!……あ、待って!やってないことがあるんだけど!?」
「お?」
吹雪さんはいつから配信再開されてるかわかんないので、ゲストの紹介がされる前に声を発してしまっていた。
「……ゴホン、今日はいい天気ですねー?ッセイ!」
「……」
「今日、髪切ったんだけど似合ってるよね?ッセイ!」
「……」
「……ほら、何で皆反応しないの!?」
「え?」
「“そーですねー”でしょ!?そこは!!」
「……っあー、なるほどね」
吹雪さんもノリわかんないときあるよね、そりゃ。
「じゃあ、気を取り直すからね?言ってよね!?」
「わかった!」
「……コホン、今日は酒飲んでいいかなー?ッセイ!」
「そーですねー」
「……アカン、アカンわ。ホンマ。“そーですね”じゃないでしょ?“いいともー!”でしょ?そこは!!」
「わからんわ!!」
「っは~、こんなんしてたらマネージャーに怒られるんだからね!?べ、別にアンタがやりたいからやるんじゃないんだからね!?」
「……え?私が悪いの!?」
「いや、空君が悪い!!!」
「なんでやねん!!!!」
……まだ紹介されてないのに、何で俺がつっこまなきゃいけないんだよ。
「……あの、早くしてください」
天の声が、センリと吹雪さん……そして、何故か俺に怒ってくる。
「あー、ごめんねぇ……次にすっか」
「だねぇ」
「ってことで、四時プロの煙火吹雪ちゃんがゲストです~。久しぶりー」
「久しぶり?今日話してたじゃん」
「まあね~……ほら、Vtuberですよ?どう、どう!?」
「可愛いと思うです!」
「へへ、どうだ~。大真ちゃんは凄いよね」
「凄いよねぇ」
……おい、近所のおばさんの会話かよ。
「……進行してください」
ほら、また天の声が怒ってんじゃん。
「え~?配信ってこんなもんじゃないの?」
「そうでしょ?」
「だよね~?」
「ねぇ」「ねぇ」
双子みたいな相槌してないで、進行しないと鈴さんがスタジオ内に乗り込むぞ?
……ほら、般若みたいな顔じゃんか。
「ってことで、吹雪さん!どうも、こんばんは!!」
「……こ、こんばんは!」
「よ、四時プロとは姉妹協定みたいな~……そ、そんな感じで今後も一緒に配信するんだよね!?」
「そうです!!」
……急にしおらしくなったな。こりゃ、裏で脅されたな?吹雪さんも。
「他は~……えっと、ゲストできてくださった吹雪さんのお願いを一つ聞くらしいんだけど……何がいい?」
「え?もう?」
「……ほら、後ろがメインだから!」
「あ~ね!じゃあ、しょうがない!」
「ってことで、何してほしい?」
「可愛い声で“B〇B、イ~イェイ!”ってやって欲しい!」
「あ、去年M-1に出てたもんね!いいよ!」
……マジでこいつら芸人リスペクトじゃん。
「……じゃあ、行くよ~?……B〇B、イ~イェイ!」
「あ、ありがとうございます!家宝にします!!」
吹雪さんの声が涙声なのは……ネタなのか?
「ってなわけで、四時プロの煙火吹雪ちゃんでした~」
「ありがとうございました~」
嵐のような、メリハリもくそもないゲストの登場は幕を閉じ––俺と大真を、千里ことセンリは手招きする。
「じゃ、次のゲストいきまーっす」
そう言って、俺らの背中を押し配信画面へと登場させた。
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