告白は配信で

 「あ~……」

 別に何か悪いことをしているわけではないんだけど……やっぱり、有名人って何かすれば話題になるもんなんだねぇ……。

 「うわぁ~、何か凄い処理されてるじゃん……プッ」

 大真は俺の隣からスマホを覗きこみ––この事を把握して、自身の顔にモザイク処理されてるのに笑ってしまっていた。

 まあ、普通に考えたらない……よなぁ。

 

 「配信はしないの?」

 大真は俺のスマホから目を離し、今はタブレットでイラストを描きながら聞いてきた。

 「するかなぁ」

 明日には千里のVtuberでの初配信がある……多分だけど、そこで新事務所の内容とか云々の話をするんだろうから、タイムリミットの期限を延ばすのは無理だろうし。

 「じゃあ、私は配信の邪魔にならないように自分の部屋で籠っておくね?」

 大真は少しだけ寂しそうな表情で言った。

 普通はさ?それが正解なんだよね?配信業をしているのであれば当然の––

 「いや、一緒にいて欲しいんだけど」

 俺ってば大胆だわ。マジで成長した。

 ……あ、いや、別にいい方向ではないかもしんないけど。

 「え?……あー、わかった」

 大真は何となく俺の提案を受け入れ、俺の隣に座った。

 「後一時間してから配信でもいい?」

 「……空さんって案外チキンだよね」

 大真の少しSな言葉と顔に––Mではないけど、ドキッとした。


 ……そこから一時間。時刻は21時を指している。

 俺はタイムリミットの時間が来るのを何とか延ばそうとあれこれ策を講じるのだが––大真は全てそれを消化させる。

 例えば、“サムネを作成してない!”というと素早くサムネを作ったり。“マイクの設定ができていない!”て言えば、簡単に設定し直していたり……。

 何でもこなせる配信業のプロと化した大真の前では、俺は無力だった。

 ……なので、俺は今から配信を半ば強引にだが開始することになった。


 配信は最初はオープニングを流すのだが……あれ?何か変じゃね?

 俺が“トイレ”という名のお花摘みに行っている間に……大真め、何か違うオープニングに差し替えているじゃん。

 女装している時の姿から––日曜日の朝にやっている少女向けアニメのような返信を経て––今の俺になるオープニングが2度程流れた。

 ……そこに金かけるのもったいないよ。大真。

 「……な、なんか凄いオープニングだったな……。ど、どうも、夕焼空です。こんばんは~」

 戸惑いつつ、軽い自己紹介をすると––

・よっ!炎上している人!

・あれ?今日は普通じゃん

・池袋行ってるの?

……等、俺の容姿や行動を見ているコメントで溢れていた。

 ってか、何で視聴者数が5万超えてるん!?

 俺は何故にこんなに人が来ているのか––タイトルを見て理解した。

 【夕焼空!一世一代の告白!!愛しのあの子に!?】

 ……大真か。

 「ほら、こっちの方が視聴者数伸びるでしょ?」

 俺の耳にASMRかのように囁く大真……ゾクゾクする。

 まあ、視聴者数が多い方が収入にもなるし……この配信が今後に繋がればいいのかもしれないし––無理やりポジティブに切り替えるしかないよね。

 

 「今日はね?酒飲んでないからね?素面なんですよ。だから、少しテンションおかしいのは勘弁してくれね?」

 そう言って、この場のテンションが異常なのを弁解する。

 「––で、えっと~……先にどこから話すべきなんだ?まあ、好きな人はいるのは普通じゃん?……で、池袋の事なんだけど~……あれは、俺だわ」

 変に言い訳するよりも、多分こっちのほうが傷口は大きくならないはず。

 コメントも“やっぱ、あれはそうだったんかw”とか書いている。

 「デート……?と思うのはどうなんだろ?俺案外ピュアだし?だから、俺自身で判断できないこともあるじゃん?」

 コメントは“うそつけw”“草”とか書いている。

 「––なんで、今日はゲストに来てもらってまーす。大真さーん!?」

 そう言って、俺は大真に仕返しをする。

 大真も、ここで自分が参加するなんて思っていなかったらしく––

 「は?え!?」

 さっきまでの余裕の表情はなくなっていた。

 そして、俺は配信画面上に––可愛い笑顔の大真の2Dの姿を表示させた。


 


 ……学生時代って凄くピュアピュアな恋愛するでしょ?皆。

 手をつなぐことだけで、嬉しくなったりするじゃん?

 それを、今俺達は体験しているといっても……過言じゃないかもしれない。

 

 俺が大真を呼び、大真は軽い挨拶をする……そこから、俺達は一言もしゃべっていない。放送事故だ。

 まあ、著作権フリーの音楽を流しているので大丈夫なんだけど。

 でも、視聴者からすれば……“この沈黙はなんだよ!”ってなるし、察知している恋愛マスターはにやけ顔なのかもしれないな。

 「……あ、あのさ、大真」

 「……え?あ、はい」

 なんか、キモいぞ。俺達。

 「多分だけど、俺の気持ちを……つ、伝えるね……?」

 「……は、はい」

 「俺は、大真さんが好きです!!!!」

 ……恥ずかしい、マジで恥ずかしい。

 大真は……まあ、何となく察してた部分と急に言われた部分で戸惑っている。

 別に今すぐに答えを出さなくてもいいんだけど……。

 

 「––わ、私も好きです!!」


 そんな、配信としては面白いのかどうかわからない––俺からしたら嬉しい言葉が大真から出てきた。

 「ま、マジ?」

 「マジ!」

 半ばヤケクソ?に見える。

 でも、コメントでは祝福のコメントとスパチャが少額ではあるが飛び交う––

・おめでと~!!

・こいつでいいんか?

・歴史に残る猿芝居

 等、コメントが出てきている中で……俺の気持ちが持たなくなったので配信を終了させた。


 配信後、俺は本当なのかどうかわからないままでいる。

 大真の方は––配信を終えると「仕事あったんだ」と言って自室に戻ってしまった。


 ……この配信終了後、ネットでは速報が流れる。

 「炎上女装Vが元大手Vに告白した」

 その記事のタイトルだが、内容は“半信半疑”“ネタ提供”等エンタメとして捉えられているものだった。

 ……だからなのか、翌日。

 千里に俺と大真は呼び出され––緊急コラボ配信をすることになった。

 

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