池袋

 「空って好きな事とかある?」

 大真が作ってくれた朝ごはんを食べながら––作った張本人は俺に問いかけてくる。

 「……なんで?」

 美味しく作ってくれたネギとわかめの味噌汁を啜りつつ、鮭の塩焼きでご飯を頬張っていた俺は少し租借した後に飲みこみ、大真の質問に聞き返した。

 「どうせ今日は配信しないでしょ?毎日してて疲れただろうし」

 「そうだねぇ」

 よく配信をする方達は––ある一定の数を行くと“収益化”がなされ、雀の涙程度のお金が賃金のように入ってくる。

 それは、炎上で有名になった俺も例外ではなく……まあ、なんとか生きていける程度のお金を貰っている。

 ……それに、一緒に有名配信者で絵師の大真がいれば……ね?


 「じゃあさ、今日は一緒に出掛けない?教材とか機材とか色々と欲しいから」

 

 予定もないし……一緒に暮らしていて、足りない物とか欲しい物は色々あるもんな––俺は二つ返事で了承した。




 「さ、いこ?」

 大真は黒のワンピースに身を包み––中性的な顔立ちと少しだけ伸びてきたショートの髪型とのアンバランスな感じが……俺の何かに刺さってくる。

 「……か、かわいい」

 つい本音が出てしまった。

 大真はそんな俺の言葉に顔を赤らめつつ––俺の手を握ってきた。

 「少し……頑張っちゃった。えっと……池袋に行きたい」

 手を引っ張る大真に抵抗することはなく、俺らは部屋から出た。


 


 「……電車ってあんまり乗らないから、新鮮だなぁ」

 交通系ICカードを持っていなかったようだったので、俺はプレゼントしてあげると––子供のようにはしゃぎ、何度もニコニコ笑顔で俺に言ってくる。可愛い。

 まあ、タクシーとかの方が便利だし……大手事務所だと電車移動はあまりしないって聞いたことあったもんな。

 電車は各駅停車で、目的地にどんどんと近づいてくる。

 比較的空いてて、席もガランとした状態だったので座っているが––大真は窓から見える景色をずっと眺めていた。


 「大真、もしかしてアニメ〇トとか行ったことないの?」

 「え?ないよ?」

 「本当!?意外なんだけど……」

 「基本はネット注文だからね。引きこもりはそんなもんじゃない?」 

 「確かに」

 「だから、初めて行くからドキドキする」

 ……可愛い。マジで天使。

 俺の心拍数が段々と上がっていく––もつかこれ?


 

 そんな俺のドキドキが高まると同時に池袋へとついた。

 俺自身も池袋は久しぶりで、このドキドキとは違う高揚感があった。


 「えと……東口でいいんだよね」

 「多分?」

 俺達は駅構内でどの出口に出ればいいのかわからずに、手探り状態のままで駅から外へと出た。

 ……あっれ?ドンキ?

 昔に来た際に出た出口からは電気屋が見えたはずなんだけど……あってるよね?

 「あ、こっちみたいだよ!」

 大真は俺の腕を引っ張り、目的の場所を指さした。

 “やっぱ、可愛いな”と思いつつ、俺は引っ張られた方向へ大真と一緒に歩んでいく。


 「なんか、デートみたいだね」

 大真の何気ない言葉が––俺らを更に意識させた。

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