毎日配信最終日。宣伝とすきな人。

 炎上は慣れているし––きっと、ネット民なんて“ご飯に味噌汁”程度に日常化しているだろう。

 だから、炎上しても……今までよりも大きな感情はなかった。

 

 「まあ、炎上は嫌だけどね」

 玩具化された俺の女装で躍らせている動画を見ながら呟く。

 「あ、可愛い」

 そんな俺の気持ちを悟って言っているのか、大真はイカの一夜干しを肴に酒を嗜んでいる。

 まあ、俺も飲んでいるのだけど。


 「とりあえず……明日だっけ?千里のデビュー」

 毎日配信を開始してから、未だに千里や有能マネージャーの鈴さんからの連絡がない。

 なので、曖昧だけど……俺らは本日の配信をどうするか考えていた。

 「……ま、炎上してるから変な事は言えないけどね」

 「だよねぇ」

 俺らは、一夜干しを平らげ––ネタ切れと明日以降の事にため息をついた。


 『おーい!!生きてるかぁ!?』

 俺のスマホから、突然の通知が現れた––この人、吹雪さん?

 四時プロの脱退問題で一緒にコラボした、四時プロの元祖からの連絡に驚いた。

 俺は、そんな連絡に「生きてますよ」と連絡を返すと––通話がかかってくる。

 「はい」

 「おー!久しぶりですね!!大真ちゃんも元気かな?」

 「元気ですよ~」

 俺の隣に来た大真は、スマホに向かって言う。

 「おー!!!大真ちゃんもいるんだー!!!」

 「一緒に住んでますしね……」

 吹雪さんは一緒に住んでる事知ってなかったっけ?

 知らないなら……あ、千里が喋ってるかもしれないな。


 「最近、毎日配信してるんだっけ?烈火ちゃんの件とか!マジで面白いことしてくれちゃってるね~!!」

 「まあ、それで炎上してるんですけど!?」

 「いいじゃん!烈火ちゃんにケツ穴広げられるよりもマシでしょ!?」

 「……」

 「でね!?今日は配信するの!?」

 「……その予定ですけど?」

 「じゃあ、一緒に配信する?」

 「はい?」

 「ほら、後輩のお礼に」

 「……いや、大丈夫です」

 「えー!!!??」

 これ以上、四時プロへの印象を悪くしたら––Vtuber生活できんくなるもん。

 だから、俺は丁重にお断りをした。……のだが。

 「じゃあ、今度配信しよ!配信しなきゃ、競馬場での失態をばらすぞ!?」

 「そんなことしてません!!」

 「……ほら、大真ちゃんと同じ服にしようとしてたじゃん?」

 「ないない!」

 ……なんか、大真の顔がしかめっ面なんだけど。


 「……まあ、いいや。今日の配信はリスナーとして見とくね」

  吹雪さんの言葉は少し残念そうだった。




 

 ■□■□■

 「こんばんは~、夕焼空です~」

 通話を終えた後、時間がないという事で無計画のまま配信を開始させた。

 また、大真も一緒に出ようとしたが––昨日の事もあったので、今は一人でしゃべっている。

 「今日は何もないんだよねぇ~……どうしよ」

 リスナーは色々なコメントが流れているが……拾うのがめんどくさい。

 実際、俺がコメントを丁寧に拾ったとしても……昨日の追求ばかりになるだろうし。

 なので、俺は何気なく昔の話をすることにした。

 「昔ねぇ……まあ、年齢は言わないけど。声優の養成所とか専門学校行ってたわけさね。今はこんなことしてるけど、俺だってイケボでアテレコとかしてたんだよ~」

 ……酒飲もうかな。

 「んでね?そんな時に、ある女性が居てね……そいつマジで人見知りすぎなの。年上ってのを入学早々にバレたからなのかもしれないけど、気づいたら一人ぼっちだったわけ。だから、俺が話かけると~……ヤバいよね。腐れ縁だもん」

 ……やっぱ、水かね?

 「今でも連絡とれるとか面白いわぁ~。あはは、マジで面白い。今度、Vtuberになるらしいし?」

 ……これ、告知していいっけ?


 俺は酒の弱さに身を任せ––諸々話をしてしまった。

 ……あれ?リスナー少しだけ荒れてる?

 「まぁ、明日以降にわかるらしいから。待ってて」

 自暴自棄だけど、俺はこの話を終えた。

 

 そして、時間の尺が余った……10分程度か?

 俺は何とかして話を繋げようと––昨日の配信の話題の一部を語りだす。

 「そうそう、好きな人の話あったんだっけ?今すきな人はいるよ?一緒にいたいと思ってるし、毎日刺激をもらってるもん」

 ……特定の人のことは言ってないぞ。

 そんなことを考えていると、尺は埋まったようだったので配信を終えた。


 配信後、俺の元に吹雪さんからの「誰なの!?」というラインと––大真の乙女な顔を見て、ドキドキした。


 そして、そんな事を言ったからなのか––炎上は俺以外にも飛び火していく。

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