毎日配信6日目。嘘発見器

 「じゃあ、嘘発見器をつけますね♪」

 通話相手の烈火さんは、俺と大真にWEB上でできる“嘘発見器”らしいものを取り付けた。

 別に自分達に何か電流が流れる……なんて事はあり得ないのだけど––

 「もし、嘘ついたらリスナーさんの前で赤っ恥ですよ?音なりますので~」

 ……そんな烈火さんの含み笑いが俺と大真の背中をゾクゾクさせた。

 

 「どうも……夕焼空です」

 女装姿のVtuberはそう自己紹介をする。

 「こんばんは。大真です」

 新衣装として––小豆色ジャージと“絵師”と書いたTシャツを着用したVtuberが挨拶をする。

 まあ、俺らなんだけど……元気のない感じは今の俺達とリンクしている。

 そして––対照的なニコニコ顔の––四時プロのVtuberが挨拶をする。

 「どうもー!!!!!!!!!四時プロ所属Vtuberの烈火ですー!!!!!!!!えっへん!今日は私が主導権を握ってますよ~~!!!」

 ドヤ顔で言っている烈火さんは、今回の配信の内容を説明する。

 「本日の配信はですねぇ!!お二人への禁断の質問をする配信です!!昨日の倍返しをしますよ~!!」

 どうやら……酒飲んでる感じする。ボリュームを絞る身になってくれ。



 俺はミキサーのつまみを何度もイジリつつ、配信を進める烈火さんの質問に耳を傾ける。


 「さて~っと、まずは空さんからにしようかな?」

 「……あっ、俺?」

 「なにしてるんですか?オナってるんですか?」

 「んなわけねぇだろ」

 「じゃ、質問に答えてくださいよ?全て“はい”って答えてくださいね?」

 「はいはい」

 「第一問!ぶっちゃけ、Vtuberはめんどくさいと思ってる?」

 「はい」

 ……。

 「あれ?音なんないんだけど……あれ??」

 思った反応ではないのか、烈火さんは驚いている。

 「……で?これで終わり?」

 ちなみに、リスナーは“やっぱりww”“だろうな~w”等流れてくる。流石俺のリスナー。

 「いや!!まだです!!!核心にはいってませんもん!!!」

 「……はあ」

 「で、では!第二問!!男が好きだ」

 「……はい」

 ブーーーーー!!!

 「お、やっぱり正常かぁ……え?」

 「え?」

 「ま、まあ!気を取り直して……第三問!まだ童貞だ」

 「……はい」

 ……。

 「えへへ、流石空さん」

 「うるさいなぁ!」

 リスナーは盛り上がっているが、俺の隣には大真さんがいるんだぞ……気まずい。

 「さ、第四問!現在好きな人がいる!」

 「……はい」

 ……。

 「ほぉ~!!誰かは後ほど…ですかね?次にいきますよ!!女装は趣味!?」

 「はい」

 ……。

 まあ、じゃなきゃ今はないわけだし。

 「へぇ……アニメみたいな設定ですねぇ。次!嫉妬心はつよいほうだ」

 「……はい」

 …ブー。

 「え?案外ドライなんですね」

 「多分?」

 「次!第七問、一人暮らしだ」

 「はい」

 ブーーーー!!

 「おろ?」

 「おろろ?」

 「……第八問にいきましょ。ぶっちゃけ、〇っクスは好きである」

 「…え、なんだよ」

 「これは尋問ですよ?答えてください」

 「……はい」

 ……。

 いや、俺も男性だぞ?童貞の。

 「第九問。実際はドMだ」

 「はい」

 ブーーー!!!

 「いやー、これは知ってました。身をもって」

 「上がいますけどね~」

 俺は隣にいる、大真に目を向けると––大真は照れ笑いを浮かべている。おい。


 「では……これが最後です。好きな相手は活動者だ」

 「はい」

 ……。

 「へぇ……」

 めっちゃ核心についた質問をしたくせに––投げっぱなしジャーマンのように、補完等は一切なかった。

 ……まあ、俺はいいよ。転生前にヤケクソで言ってたこともあったし。

 でも、大真は……大丈夫なのか?

 転生したからって––元四時プロの核みたいな人だったんだぞ?


 「さて~……、あれ?リスナー盛り上がってないじゃないですか?」

 烈火さんは俺への質問を終え、リスナーの反応の悪さに悪態をつき始めた。

 実際、初配信から事故ってたり……まあ、普通中の人が言えないことを平然と言ってたからなぁ……そんな反応が多くなるよな。

 ちなみに、ゲーム配信以降からは過激な内容も含む可能性があるためコミュ限配信のままになっている。


 「ん~……まあ、いいでしょう。私の配信じゃないし」

 「おいおい」

 適当なツッコミを俺はいれるが、当然スルーされる。

 「じゃあ、次は大真さんですねぇ」

 「よろしくお願いします」

  そう言って、大真への質問という名の––尋問が開始された。


 

 「では…軽い質問から。今楽しい?」

 「はい!」

 ……。

 「ほぉ~……、では……四時プロ在籍時は苦痛だった?」

 「はい」

 ……。

 「え?」

 「え?」

 「あ、いや……ここは切り抜きしないでくださいねぇ?リスナーさん。……では…Vtuberとリアルだとリアルが楽しい?」

 「はい」

 ……。

 「マジですか…。次は…え、えと……今は一人暮らしだ」

 「はい」

 ブーーー!!

 「ほぉ~……。大真さん大丈夫ですか?」

 「はい?」

 「いや、何か四時プロの時とキャラが全く違うので……」

 「さ、続けましょ?」

 「ひっ、は、はい」

 尋問されてる側が……立場が上ってどんな状況なんだよ。

 烈火さんは、大きな深呼吸をし––質問を続けた。

 「大真さんはドMだ」

 「はい」

 ……。

 「……あれ?やっぱり壊れてる?」

 「え?」

 「あ、いや~……だ、大丈夫です。次にいきましょう……好きな人がいる」

 「はい」

 ……。

 「ん~?」

 「どうしました?」

 「壊れてないはずなんだけどなぁ……音なったのかな?」

 「多分、烈火さんの耳がおかしいだけですよ」

 「あはは!そ、そうですか!!!」

 逆転してるぞ、烈火さん!頑張れ!

 リスナーも逆転現象がおこっている様をみて––大真を“女王様”と名付ける輩が増えてきた。わかるかもしれん。

 「……次にいきましょ。第……七問かな?Vtuberになってよかった」

 「はい」

 ……。

 なんか、質問する順番おかしくね?俺の時もそうだったけど。

 「第八問。四時プロ在籍時に関係者から関係を迫られることがあった?」

 「はい」

 ……。

 「絶対に切り抜きすんなよ!?わかったか!?」

 烈火さんの質問なのに、何故か烈火さんが怒る。

 「烈火さんの質問だよ?」

 「いや、そうですけど……。あ、やっぱりコレ壊れてるんですよ」

 「いいから続けましょ?後二問ですよね?」

 「はいぃ……第九問、〇ックスが好き」

 「はい」

 ……。

 「壊れてるわぁ、コレ。すいませんね」

 「……最後ですよね?」

 大真の顔は真顔だけど、何か怖い。

 それを声だけで察知した烈火さんは––恐る恐る核心についた質問を最後にする。

 「最後です。好きな人とは今一緒にいる?」

 「はい」

 ……。

 


 「……えと、これ壊れてましたー!!!すいませんんんんんんん!!!!!!!」

 烈火さんは俺へのサポートはなかったくせに––今は必死になって場が荒れないようにしている。

 それを、大真は小さく「ふふっ」と含み笑いを浮かべて––俺は色々と焦る。

 「空さん!!!配信終わりましょ!!!!」

 「お、おう」

 そして、俺達の配信は終了した。


 配信終了後、烈火さんは何度も何度も大真に謝罪をしていた。

 「大丈夫だよ~」

 と言って、謝罪を受け流していた。


 翌日、当然の如く––ネットニュースとなり、俺だけが炎上した。 

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