毎日配信5日目。ベッドの匂い

 Vtuberには暗黙の了解みたいな“初期設定”がある。

 委員長であったり、オタクだったり……未来人とか様々すぎる設定がある。

 

 俺にはそんな設定はとっくのとうに崩壊しているのだが、四時プロ出身の大真や吹雪さん、烈火さんは何気に最初は設定を守ろうと必死だった。

 まあ……でも、そんなもんは自分の首を絞めるのであれば––なかったことにするのが一番得策だ。

 だから、俺の隣で酒を飲んでいる大真は今は気楽にできるんだと思う。


 「ところで、大真」

 「なに?」

 「……本当はそういう趣味があるのか?」

 「べ、別にないよ!?」

 「そかそか」

 互いに作りあった酒のつまみを摘まみ、酒を流しこんで––配信準備を整えた。

 ……この生活も何気に慣れたもんだな。

 それに、俺の生活があまりにも変わってきているのも……本当慣れって大事だわ。


 「配信するかぁ」

 「そうだねぇ」

 何気に2杯もほろ酔い缶を飲んでいるので––互いに顔が赤い。

 そして、俺達は烈火さんに通話をつなげた。

 「どうも~……ふぅ」

 ……賢者タイムなのか?

 「賢者タイムですか?」

 大真は何気なく聞いてくる。おい。

 「え~、そうですぅ」

 烈火さんも普通に答えてくる。俺は男だぞ?女2人が何言うんだ。

 「さ、続きしましょ!!」

 大真は俺の感情も、烈火さんの賢者タイムも無視し、配信開始ボタンを押した。


 ……ここからは、非常にグダッた挨拶を延々10分と続けた。

 しかし、時間は直ぐにすぎるわけがなく––

 「さ、ゲームしましょ!」

 大真のニコニコ顔で気圧され、俺達は昨日の続きを開始した。

 

 昨日の配信では……確か、主人公の俺が男性に告白したとこで終わったっけ?

 「じゃあ、ここからは本気の本気でよろ」

 大真は俺にセリフを促す……これ言わなきゃダメ?

 

 「……え、えと……今日、うちの〇ナル綺麗にしたんだ……えへっ」

 ……“今日、家誰もいないんだ♪”みたいなノリで言うな。主人公。

 俺は、脳内でそんなツッコミをしつつ––大真の圧に押され、続ける。

 「べ、別にアンタの為じゃないんだからね!?綺麗にしたかっただけだしん!」

 ……いや、マジでこのゲームなんだ。主人公頭どうした。

 乙女ゲー…だよね?何か、違うゲームに思えるんだけど。

 

 俺のセリフを大真はニコニコと聞いて、烈火さんは小さい声でうめき声をあげる。

 そんな、カオスな状況の中––ゲームは場面が切り替わり、主人公の部屋へとシーンはうつる。

 「ねね!今日の罵倒語録どうだった?興奮した?ねえ!?ねえ!!??」

 本当にさっきの場面の切り替わりか?話がおかしいんだけど。

 俺はセリフを言いつつ、気持ち悪いゲーム展開に––酔いも相まって吐きそうになる。

 それでも、俺の前に水とウコンを大真は置き、続きを促していく。


 「……ねぇ、ベッドって気持ちいいよね?〇〇君の匂い……いい」

 ……あ、これは……。

 そこからは、視聴者にはゲーム画面は見せないようにした。BANなるわ!


 そして、俺のマジな音声も中断した。喘ぎ声したくねえ。

 俺の隣にいる大真は不満そうに、烈火さんは息が荒いけど……大丈夫か?


 ……そんな、このままだと非常にやばいと判断し、配信を閉じた。

 でも、リスナー……いや、大真が一番納得できていないようだったので“特別”という形で今後やるであろう、メンバーシップ限定動画を作成するという代替案で……この続きをすることになった。


 ……俺も烈火さんもライフ0状態。

 大真はそれを楽しんでいるかのように、この毎日配信のゲーム実況は強制終了となるのだけど……烈火さんがヤバそう。

 「烈火さん大丈夫?」

 「えと…だ、大丈夫」

 「鼻血でてない?」

 「詰めてます」

 どおりで途中から声がおかしかったのか。

 「……えと、なんかすいません」

 「いえいえ……良いものが聞けました」

 「でも、烈火さんが初心なのは正直驚きましたよ」

 「失礼じゃないですか!?」

 「そうですか?」「まあまあ」

 俺と大真が言うと、烈火さんは一つ提案をしてきた。

 

 「明日の毎日配信もお邪魔していいですか?2人の話を聞きたいです」


 俺と大真は……今日の暴走の見返りとして––明日の配信の内容を烈火さんの言うままにした。



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