配信後のオムライス

 大真の配信後、チャンネル登録者は一気に増え続けた。

 そうなると、大真への依頼が一気に増加し––今は複数の依頼を受諾し、忙しくなっている。

 「大変だけど、力になるよ」

 忙しいはずの大真は笑顔で俺に言う姿は、凄く嬉しそうで……俺は少しだけ寂しかった。


 そんな大真の再デビュー後の話だ。

 「ちょっと時間ある?」

 千里からのラインが俺に届いたのだ。

 「どうしたん?」

 「いや~、やっとのことでひと段落してさ」

 「アニメ見てたよ。お疲れ様」

 「見てたんだ~、配信で文句言ってたのに」

 「……まあ、今は状況違うし」

 「まあ!どうしたの!?」

 「…で?用はなに?」

 「えっへっへ~!!再デビューの大真ちゃん可愛かったねー!!……私のデザインも描いてて、本当大真ちゃんは凄いね~!!!」

 「あ~、大真描いてたね」

 「…大真…だと!?」

 「うん。ため口にしてほしいって」

 「…ふ、ふーん。大真ちゃんって案外積極的だよね~」

 なんか、千里の様子おかしい?

 

 「とにかく!!今度、私がデビューする前にやって欲しいことがあるの!!」

 「ほぉ?」

 「大真ちゃんが多分忙しくなってると思うし、四時プロの人とも皆コラボするでしょ!?」

 「あ~、みたいだよね」

 ……あ、鈴さんに言われてた言葉の確認してないや。

 

 「そこで!せっかくなら大きな事をしたい!!と思って~空君には毎日配信と宣伝をしてほしいのよ」

 「毎日配信かよ」

 「そそ!ソロでもいいし、吹雪ちゃんも時間があれば呼んでも大丈夫みたいだし……ま、まあ大真ちゃんでもいいんだけど」

 「俺がするの?」

 「空君が中心の企画なんだし、当たり前でしょ!?」

 「……俺、巻き込まれていってるだけな気がするんだけど」

 「気のせい!気のせいよ!!……それに、今楽しいんじゃない?」

 俺は否定できなかった。だから、既読スルーをしていると––


 「じゃあ、今日から約一週間配信お願いね!ゲーム配信とかしたいなら今日機材届くと思うから!」


 ……そこから、千里の返信はなくなった。

 鈴さんからの連絡は未だにないから……きっと、千里の独断なんだろう。

 多分、千里自身が緊張しているから––そのハードルを極限までに上げて、飛び越えるスタイルでいきたいんだろう。コイツMだわ。


 


 

 千里とのラインが終えた後、玄関に荷物が届いた。

 今は“置き配”というシステムがあって––本当便利だよな。

 俺は配達員がいなくなったのを見計らって、その荷物を部屋へと入れると…そこには配信機材が入っていた。

 ……あれ、コレは…。

 もう一つ入っていた荷物は見えない様に自分のクローゼットに封印した。

 「毎日配信なぁ」

 俺は忘れる為に呟いた。




 さて、人間というのは集中すると時間を忘れるという事は時よりある。

 配信者であれば3時間以上の配信は集中モードが持続した結果だと思うし、作家とか絵描きであれば、朝から晩まで何も口にせずに書き上げるとかも聞く。

 それは、俺の同居人も例外ではなかった。

 「おーい、大真。ご飯食べよ」

 外は夕焼から夜へと変貌している午後7時。

 大真はトイレに立つこともなく、自室から一度も出てくることはなかったので––俺は好物のオムライスを作ってあげた。

 すると、掠れた声で「あ、もうこんな時間なの!?」と驚いて自室から出た大真が座るテーブルに置いてあげた。

 すると、子どものような無邪気な笑顔でオムライスを見つめると––

 「ケチャップ!ケチャップはないの!?」

 そう言って、俺の手元にあったケチャップを半ば奪い取るような形で手に取った。

 そして、そのケチャップを持った大真は二ヤリ顔を浮かべ……

 「空へメッセージ書くから後ろ向いてて!」

 ……何か、ランナーズハイみたいな状態なのか?テンションが少しおかしい気がする。

 そんな大真に少しビックリしつつ、俺は後ろを向いた。




 「よーっし!!」

 大真は俺が後ろを向いているのを確認すると––黙々と何かを綺麗に盛り付けられた“オムライス”というキャンパスに赤色を塗っていく。

 「なんか、メイドみたいだね?『おかえりなさいませ!ご主人様!』とか言ってあげようか?」

 「いや、だ、大丈夫です」

 メイド服を着た可愛い大真を想像したら……俺の鼻からケチャップ出るわ。

 「ふふ。そう言うと思った」

 「おちょくってる?」

 「千里さんと色々会話してたんでしょ?酷いじゃん」

 「向こうから送ってきたの」

 「…ふーん。まあ、いいけど!…できた!」

 そう少しだけ拗ねた大真は、何かを書き終えた。

 「見ていいよ」

 大真は俺にオムライスの文字を見る許可をだし––俺は振り向いた。


 【今度、デートしたいな】


 ……俺はそのオムライスの文字を見て、メイド喫茶(ぼったくり的な店)かと思った。

 「凄いキレイな字だね」

 「え?」

 俺の返答に……大真さんは意表を突かれたようだった。

 「…え?」

 「まあ、良い字でしょ?絵を描くために文字の書き方の練習もしたんだ」

 「さすが、大真」

 そんな会話をしたのち、大真さんはそのオムライスを小さな口で食べ進めていく。

 俺も俺で、先に食べていたが口が寂しい感じだったので––冷蔵庫の中にあった、たこわさとビール(ノンアル)で晩酌を始めた。

 ……なんか、本当。いい時間だよね。これ。


 ……そんな、幸せの空間を––大真のスマホが壊した。

 「あれ?久しぶりな人から連絡来てる……ねえ、空?この人が配信をしてほしいって言ってるんだけど」

 大真は自身のスマホを俺に見せてくるのだが…コイツ…。

 「今日、凸しますね♡」

 その言葉が見え、俺の毎日配信のハードルを段々と高くしていった。

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