鎮火作業と最高の舞台。
「いえええええええええええええええええええええええええええいい!!!!!!」
いつものように、夜の静けさを壊す––煙火吹雪の配信は開始された。
俺と大真さんはその配信を……ディスコで直接吹雪さんの声を聞きながら、出番を待った。
Vtuberっていうのは、全員とは思わないがルーティンがあると思う。
大真さんもだけど、今見ている吹雪さんも同じように––オープニングトークからのリスナーからの質問に答える…そして、軽い話題で場を盛り上げる。
なので、ゲストというのはそれなりの時間があるものらしい……っていってもさ––
「マジで長くね!?」
配信開始してから、もう1時間程経った。
元々は長時間配信も苦にならないVtuberということで…24時間配信も月一程度しているから体内時計が狂っているのかもしれないな。
「まあ、吹雪せんぱ…吹雪さんらしいですよね」
そう言って、俺の隣の小さな美少女の大真さんはお茶をすすった。
「––さ、今日は特別ゲストがきてますよ!!」
やっとのことで、配信主の吹雪さんは俺達を呼び入れた。
「どうも、夕焼空です」
「おひさしぶりです…大真です」
配信主のテンションの高さに俺達はついていくことはできず、テンションが低いまま答えた。
吹雪さんは俺らの登場と共に立ち絵を配信画面に登場させているのだが、何故か俺だけ実写(女装)なのは……ツッコミするのはやめとこう。
「テンション低くない!!!???」
だけど、当然のように……吹雪さんはツッコむ。
「まあ、初めて違う人の配信にお邪魔してますし」
「私も……」
それぞれに応えるのだが、つまりは緊張しているんだ。
「まあまあ!先日投稿した動画の話をしましょうよ!」
吹雪さんはリスナーから来ている俺への非難コメを華麗にスルーしたまま、俺らに会話のキャッチボールをしてきた。
当然、リスナーはそんな対応している吹雪さんへの当たりも強くなるが––自分が蒔いた種を摘むために悪役となっているように感じた。
「大真さんをもらえてラッキーです!」
俺は、そんな吹雪さんの意思を逆なでするかのように自分が悪役になるように仕向けた。
今に始まった事ではないし…そもそも、『炎上させる事』は使命だもんね。
それを、吹雪さんは汲み取ったように––
「くっそー…四時プロの希望を盗みやがってぇ」
わざとらしく言う姿は少し納得していないのかもしれない。
「吹雪さん、および頂きありがとうございます」
そんな俺と吹雪さんの会話に––四時プロでは大人しいキャラだった大真さんが割って入ってきた。
「大真ちゃん~!大真ちゃんもこの前は本当ありがとね!!」
「私も嬉しかったです」
「大真ちゃんにあんな才能あるなんて本当凄かったよ!確か…15万以上だっけ?
私も欲しかった~」
「いえいえ、本当にたまたまですよ」
「羨ましい~…本当、レース代を四時プロの経費にしたかったぁ!!」
「まあ、今回の事で四時プロが動いてくれたらいいですよね」
…聞いていた俺は直ぐにわかった。
「これ、めっちゃよそよそしいね!?」
俺の気持ちを吹雪さんは代弁してくれた。
そこからは、本当にしょうもない話をしていた。
まあ、関係者とか色々な人が見ているかもしれない配信で––吹雪さんも、大真さんも口を滑らせることできないもんね。
…なので、俺が爆弾を投下することで場を壊そうと思った。
「どうです?今度は吹雪さん争奪戦とか」
ネット界では未だに“大真さんの裏に自分が糸を引いていて、無理やり脱退させた”なんて情報が躍り出ており––この配信でも同じような意見が目立っている。
なら、俺は悪役として徹して…皆を守ろうと思った。
「ダメです!!!!!」
そんな魂胆をブチ壊すように、大真さんは大きな声で遮った。
それは、配信上では見せたことのない…凄く大きな声だった。
「ダメですよ、空さん。そこまでして、自分を悪くしないでください」
「…え?」
「皆さんも聞いてください!!!実は、脱退した理由は違うんです––」
俺は真っ赤な顔をして、マイクの前でしゃべっている大真さんに気圧された。
せっかくの…自分の言葉で言えるチャンスがある…そう思って勇気を振り絞ったんだろう。目には涙が流れていた。
「私は夕焼空さんの言葉に感銘を受けたんです。自分がしたいことを真っすぐにすることが…今までできなかったから。上手く言葉にはできないけど…。それに、今の私は凄く充実しています!炎上とか誹謗中傷は怖いけど、自分の周りにこんなに協力してくれる仲間がいるなんて…グスッ…」
「大真ちゃん大丈夫?」
「…はい…。吹雪さんも四時プロを急に脱退することになって、それを事務所に確認して…ここでは言えないけど色々と説得してくれました。それに、動画だって…『ついで』みたいなこと言ってたけど、自分の晴れ舞台をダメにするようなことを平然として…本当に感謝しかないです。ありがとうございます」
「大丈夫だよ」
「それに、何かあった時の事とか全て考えてくれていて…嬉しいです」
…四時プロの内情は言えないのだろう、言葉が所々詰まる。
でも、リスナーからしたら本人から出た本音に納得はできたと思う。
「…さ、大真ちゃん言ってやろう」
吹雪さんは震え声だった大真さんをなだめ、促す。
「…え?」
言葉の意味を理解できていない、大真さんは聞き直す。
「事務所に言ってやるの!!!!!!!!!」
「…あっ」
吹雪さんの言葉で色々と察知した大真さんは––大きな深呼吸をした後…
「四時プロの馬鹿やろおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!お前らの契約のせいでまともな活動できるわけないだろ!!!!!!!!!!ブラック会社みたいなことすんじゃねええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
…さっきの俺の気持ち全て返せよ。
それくらい、大真さんの中にあった気持ちが爆発した。
「あっひゃっひゃ!!面白いねぇ~大真ちゃんはそうじゃなきゃ」
「…スッキリした」
「あり?空さんはいるかい?」
「…います」
四時プロは本当に無法地帯だけど大丈夫か?
「スッキリしたんならいいのさ!」
吹雪さんの言葉が俺の気持ちの返答をしてくれた。
そこからは、再度色々な会話が3人で交わされていく。
「空さんの配信…色々と喧嘩売っているように見えて、まともだよね」
そん中でも、吹雪さんは俺の配信や中身を根掘り葉掘り聞いてきた。
「そうなんですよぉ~…空さんがいなきゃ、未だに奴隷契約でしたよ」
完全に吹っ切れた大真さんはそれに乗っかるように…俺をあげるかのように流暢に喋りだす。
俺はというと…恥ずかしいのと、何を言えばいいのかわからず無言でいた。
すると、四時プロ在籍中のはずの吹雪さんは語りだす。
「マジでさ~“当たり前”と思っている人はいるもん。ロボットではなくて私達には【心】がある事忘れてるんだよ。自分が自分でいなくなったら…それって、みんなからしても魅力なくない!?」
「そうです!」
「だから、よかったねぇ~大真ちゃん」
「まさかでしたよ~」
なんか、酔っぱらっているかのようなテンションになってきた…余計な事言わないだろうな…。
「そういえばさ、元四時プロの方からの了承もらったんだけど…これ、私が言っていいの!?」
「何がですか!?」
「いや、今急に連絡が入ってさぁ…言って欲しいって」
「あ~…いいんじゃないですか?」「言っちゃいましょう」
俺と大真さんは何となくだけど…まあ、理解はできていた。
「夕焼空、大真(仮名)…残り何名かでVtuber事務所を立ち上げることになりました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
…これ、四時プロの人怒んないの?いいの?
といっても、凄く良い宣伝にはなったのは事実なんだけど。
吹雪さんの口からでた重大発表にリスナーは
・ま!?
・事務所!?
・吹雪が言っていいのかよ
・はあ!?
素直に受け取れない反応が主だった。
そして、吹雪さんは「あ、また来た」といって付け加える。
「四時プロメンバーとコラボ配信します!!!!!!!!!…は?マジで!?」
言った後、言った本人も驚いた。
…簡単に状況を言うと……四時プロは今回の件をなんとも思っていない、より仲を深めようとしているのだ。
…つまり、吹雪さん以外ともコラボする。
「うっしゃあ!!!アイツを倒すぞ!!!」
場に酔った大真さんの言葉がエコーでかかり、それが配信のオチとして採用された。
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