ネットニュースとガチ恋勢~コラボ配信~
「ネットニュースのアクセス数凄いですね」
大手Vtuber事務所の煙火吹雪(えんかふぶき)さんとコラボした動画が吹雪さんのチャンネルで公開されると––瞬く間に再生数は増え、ネットニュースが複数投稿された。
内容というのも、『吹雪を使った売名行為』だの『大和大真を返せ』だの俺の事を悪者にする様な記事しかなく––四時プロ内でのVtuberも色々とSNSで反応していた。
「まあ、吹雪さんも多少狙っている節はありましたからね」
そう言って、ダイニングテーブルの向かい側に座っている大真さんは苦笑いを浮かべながら、自分のタブレットに色々と絵を描きこんでいた。
事実、この動画が投稿された後––吹雪さんの配信にて「今後、面白い事があるかもね!?」と言って四時プロ時の大真さんのシルエットを載せていた。
ということは……リスナーからすれば『配信するのか?』という期待が持たれるものだもんな。
「時間はないみたいですけど…無理はしないでくださいね」
そう言って、頑張って新しい自分をつくる大真さんに昼ごはんのパスタを盛り付けて、大真さんの目の前に置いた。
「四時プロって本当に何でもありだね」
ミートソースのパスタを丁寧にフォークに巻き付け、俺は口に運びながら呟いた。美味い。
それを、パスタを見ずに片手で何とか食べようとしている大真さんは返答してくれた。
「四時プロっていうか…先輩達だけですよ?ここまで大きくしたのって先輩方の努力の賜物なんでスタッフさんも何も言えないんです」
結局、上手く取れない大真さんはタブレットから目を外し––パスタを黙々と食べ始めた。
小さい声で「美味しい」と言っている姿は本当に可愛かった。
さて、話は変わるけど…Vtuberっていうものに夢を見る者、利用する者……色々な理由でVtuberが増えた。
それでも、悪用する者を取り締まる事は無く無法地帯となっている。
実際、この俺に対して殺害予告に近いものが毎日届く。
そして、顔出しはしているから例外かもしれないけど…Vtuberの容姿を非難する者だっている。
……何が言いたいのかっていうと、現時点で自分の精神は限界にきてはいる。
それは、近くにいる大真さんも同じだと思う。
大真さん自身にも「裏切者」「辞めたくせに先輩を利用するな」といった誹謗中傷がきているのだ。
それでも、こうやって頑張れている理由は…
「リスナーや友人、先輩の為にがんばります」
自分の事を応援してくれる仲間や友人がいるからなんだろう。
「今日は配信します?」
俺と大真さんはご飯を食べ終え、少しばかりのほんわかタイムを挟んでいる時にラインが来た。相手は吹雪さんだ。
俺は「迷ってます」と送ると––着信音が鳴り響いた。
「はい、こちら大和大真親衛隊です」
「会長は私ですかね?」
「違います」
「ハハッ、まあ大真ちゃんが発足したらすぐに会員になるので」
「で?ご用件は?」
「んにゃ~…動画の事でまず謝りたくってね。本当、申し訳ないです」
「あ~…別に吹雪さんは関係なくないですか?」
「自分の思ってた以上に炎上してたからね…大真ちゃんも。同じ様なTシャツを着ているだけで『匂わせかよ』とか言うのには笑ったけど」
「……ガチ恋とかいうのもありますのでね」
「私には全くないんだけどねぇ~。やっぱ、大人しい感じの子にはガチ恋はつくんだろうかね~?」
…吹雪さんがそんなこと言って大丈夫なのかとは思った。
「で、まだ報告があるんだけど」
吹雪さんは続けて、話を進めてくる。
「四時プロで使用してた大和大真ちゃんのモデルをどこでも使っても良いって事務所から許可をとってきたよ」
「…大丈夫なんですか?」
「大丈夫ではないかも?うちの事務所からしたらめっちゃ損にはなると思うけど」
「ヤバくないですか!?」
「ヤバいヤバいw でも、四時プロをここまで成長させたのは大真ちゃんの努力のお陰でもあるし、せめてものお返しだよ」
「凄い有難いですね」
「それに、次の争奪戦で取り返す予定だし」
…あー、そういう魂胆ね。
通話越しに聞こえる吹雪さんの声を聞いて、ドヤ顔なのが目に浮かんだ。
ちなみに、コラボ動画の時は大真さんには“吹雪さんが手書きで描いた大和大真”が使われていた。…エイリアンかと思ったわ。
「それとね…空君に対してなんだけど…今日配信する時間とかはあります?」
「ありますけど…」
「じゃあ、私の配信でコラボしましょう」
「コラボですか…?」
「そうそう、大真ちゃんも一緒に来れるんなら来てほしいの」
「え?大丈夫です?」
「大丈夫大丈夫!」
その言葉には何か自信があるような気がして…俺は真ん前にいる大真さんに打診した。
すると、何も言わなかったが縦に首を動かしたので…そういうことなんだろう。
「じゃ、決定で!じゃあね!!」
通話を切った吹雪さんは後々時間を指定してきた。
事後報告とはなるが、千里と鈴さんにもこの事を連絡した。
すると、把握した旨と一緒に今後の予定を送ってきてくれた。
「千里の方のアニメ収録終わりました。あと少しだけプロモとかありますので、数週間後にVtuberデビューできると思います」
その言葉が––後々大きな四時プロとのコラボへと発展することになった。
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