サンシャイン吹雪~大手Vの配信~

 通話の予定の時刻は向こうが毎日配信をした後……恐らく、22時過ぎになるだろうとのことだった。

 「流石、登録者100万人超えだな」

 「…吹雪さんは凄い方なんですよ」

 風呂から上がった俺を大真さんは、アイスを渡し––大真さん自身もアイスを食べながら、俺のパソコン画面に映る吹雪さんのアイコンを見て会話した。

 

 煙火吹雪(えんかふぶき)……この方の事を調べると色々な情報が飛び交っていた。

 隣には同じ箱で活動していたVtuberもいるので、アイスが溶けないうちに色々と聞いてみる。

 「吹雪さんって…そんなに凄いの?」

 「凄いってもので片づけるわけにはいかない…ヤバい存在ですよ。四時プロをこんなに大きくした象徴の一人ですし。ましてや、配信見ていると『何故、こんなに凄いんだ』ってのがわかりますので…見てみましょうよ」

 「…まあ、時間もあるもんね」

 現在の時刻は昼14時頃、配信は18時から開始か……夕飯を食べながら、見てみるか。

 そう思い、俺と大真さんは夕飯の買い出しにいった。


 

 「さて…配信もうすぐみたいだね」

 買い出しを終え、大真さんが得意と言っていたロールキャベツをコトコトと煮込み––いい匂いが部屋中に立ち込めている、吹雪さんが作詞したオリジナル曲が配信待機中のページで流れ、その綺麗な歌声が更にお腹の空き具合を助長させた。

 ……そんな素敵な曲が数曲流れ終えると、大きな声が素敵な空間をブチ壊す。


 「いえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええいい!!!!!!!!!!!!!!!」


 …うっさい!!!!しかも、長い。これ、同じ人なのかよ。

 …ってかこれ、昔流行った芸人さんみたいだな。

 「吹雪さんって、あの芸人さん好きなんですよ」

 キッチンに立ち、出来上がったロールキャベツを盛り付けながら苦笑していた。

 まだ少し悩んでいる感じはあるものの、久しぶりの先輩の配信に懐かしかったんだろう……後ろから少しだけ見える横顔は––やっぱり可愛かった。


 俺は、大真さんにも配信が見えるようにとスマホへと配信画面を切り替えた。

 そのスマホを、背伸びして買ったダイニングテーブルの中央に置き、その両端に俺達は座って––ロールキャベツを『いただきます』と言って、食べ始めた。美味い。

 スマホにうつした配信画面には、あの芸人の前口上を延々と繰り返すという……本人そのものの熱量で演じていた。

 「––ふ・ぶ・き…!いええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええい!!!!!!!!!ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッスッティス!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 …すげえな。

 「実は、吹雪さんの配信をその芸人さん聞いているみたいですよ。許可もらったとか言ってた気がします」

 大真さんは、ロールキャベツを綺麗に一口サイズで切りわけ––綺麗に食べつつ、俺の心の疑問に答えてくれた。


 そこからは、吹雪さんは場を温めるかのように––自分にきた質問に情熱的に答えていく。


“煙火吹雪様、本日も配信ありがとうございます。ここ数日、四時プロ内で色々とありましたけど、吹雪様は大丈夫でしょうか?それと、正直な気持ちを芸人さん風に言ってください”

 「どうもー!!!超絶怒涛のVtuber!!笑いを愛し、愛された女ァァァァァァ!!四時プロ、ゼウス、坂〇忍全ての笑いの産みの親ぁぁぁ!!!そう!!我こそはぁぁぁぁぁぁ!!!!たとえ、四時プロで何かあろうと、Vtuberに命を燃やし、燃えた炎は星となり!!Vtuberの全てを笑顔に変えるぅ!!!そう、我こそはぁぁぁぁぁぁ!!!!!身長160cm、体重林檎3つ分、長所!笑顔が可愛いところ!!短所!四時プロの癌!!そう、我こそはぁぁぁ!!Vtuberに舞い降りた、孤高の天使!!キャッチコピーは『白煙、黒煙あげてやるっ!』通帳残高、129万円!!!そう我こそはぁぁぁぁぁぁ!!!––」

 

 俺は、すぐさまスマホの音量を消音にした。



 ……確かに、今配信に映っているVtuberは凄く綺麗な顔立ちをしている。

 大真さんのデザインが、所々で見えて––四時プロにいた時の大真さんの姿がちらつく。

 「この髪、実は吹雪さんだけしかデザインしていないんですよ」

 ご飯を黙々と食べていた大真さんは、そう呟いた。

 今配信に映っている吹雪さんは独特の髪型をしている。

 吹雪さんから見て、右型はショートの髪型。そして、左側はロングでサイドテールをしている。一見アンバランスに見えるが、自分をアピールするには凄くわかりやすい。

 それに、白をベースにし、黒をポイントでちりばめた着物みたいな和服を着た姿は不気味さも醸し出していて目に凄く焼き付く。


 「挨拶おわったんじゃないですか?」

 大真さんは消音にしているスマホの音量ボタンを押し、吹雪さんの声が段々と聞こえはじめた。

 「…ま、四時プロって案外シャイボーイ&ガールが多いからね」

 話が全くわからないが、両手で『やれやれだぜ』みたいなポーズをしている吹雪さんが笑いながら言っていた。


 ところで、大真さんが「この方は凄い」と言っていたのが……要所要所で垣間見えた。

 最初に歌声にビックリしたが、それだけじゃなかった。

 リスナーの教育が凄い。

 普通、アイドル売りやアイドルを目指している子っていうのはリスナーのいう事を聞くか、スルーして反論なんてしないものなのだが…吹雪さんはバンバンと反論をする。もちろん、理不尽なことは言っていない。

 しかも、それをリスナーはちゃんと聞いてくれる…凄い信頼関係だ。

 それに、ほとんどのコメントを読んで返事をしている。


 「ね?凄くないですか?」

 大真さんは自分のことのように、俺に言ってきた。

 その可愛い大真さんに嬉しさと、寂しさがあった。


 配信は雑談メインで一時間程経った。

 それでも、途絶えることなくしゃべり続けて、話のオチもしっかりあって––

 「あ、これが100万人超えVtuberなんだ」

 つい口に出てしまった。きっと、誰にでもファンになるのが理解できる。




 「大真さんに聞いてもいいですか?」

 配信の音量を少し下げ、俺は先ほど食べ終えたばかりの大真さんに聞いてみることにした。

 「公式ホームページの吹雪さんと見た目違いすぎません…?」

 公式のほうには『清楚です』というような––ロングの髪型に、前髪パッツン。制服を綺麗に着こなしているVtuberが鎮座していたのだけど…。

 大真さんは、食べ終えた食器を流し台に持っていきながら答えてくれた。

 「…多分、スタッフの方が嫌なんだと思います。私がデザインしたものだから」

 短い回答の中に…色々な感情があって、俺は他に聞くことができなかった。

 「ま、吹雪さんが良いなら良いんですよ」

 振りむいた大真さんの顔は苦笑いだった。




 「––んじゃ~ね!ありがとうございました~」

 吹雪さんは雑談だけで、約3時間の配信を終了した。

 予定時刻までは1時間程あるのだが…きっとその間に色々と済ませるんだろう。

 俺達は俺達で…特に、大真さんは自分のタブレットに何かを描いては消してを繰り返し––予定の時刻を迎えた。

 

 「じゃあ、通話しますよ…?」

 意を決した表情の大真さんの真っすぐな瞳に吸い込まれそうになりながら、俺は吹雪さんと通話を開始した。

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