願望とお風呂

 今日のご飯は、冷凍食品のフルコースだ。

 俺が適当に買ってきたこともあって、ドリアにエビチリ、パスタにタンタンメン…絶対に太るフルコースを2人で食べ始める。

 大真さんは––未だに元気がない。

 「後悔していない」

 そう言って、俺に真っすぐな目で見てくれたことは嬉しかった。

 でも、今その後悔を消し去るチャンスがあるんだ。考えてしまうのはしょうがない。


 「あの」

 大真が久しぶりに口を開いた。

 「どうしたの?」

 「えと…このエビチリしょっぱいですね」

 不器用な笑顔で大真さんは俺に微笑み、場を何とか和まそうとしてくれている。

 俺は「そうだね」と、つられたように苦笑いをしてしまった。

 ……そこからは、また沈黙した空間が場を覆いつくした。

 「今日は疲れたね」

 それでも、俺は場の空気を換えようとしてくれた大真さんの気持ちを汲み取り––なんとか声をあげた。

 すると、大真さんも「そうですね」と相槌を打ってくれた。

 「今日は忘れて…飲む?」

 冷蔵庫から取り出した、ほろ酔いの缶を大真さんの前に差し出す。

 すると、大真さんは「飲みましょ」と言って缶の蓋をあけ––一気に流し込んだ。


 “…そういえば、決起集会という名の顔合わせの時、飲んでいたっけ?

 俺は思い出す。…飲んでなくないか?”

 

 俺は、脳内で自問自答して––ヤバいと思い、大真さんの缶を取り上げた。

 しかし…時すでに遅し、缶は軽く、中身はほぼ入っていない状態だった。

 見た目はまだまだ幼く見える、小柄な女性の顔はすぐに赤くなっていく。

 

 「あの!!!私!!成人してますからね!!!」

 俺が心配な顔をしているのを、何故か察したように自身の財布から免許証を取り出して見せてきた。

 ……確かに成人している。ってか、同い年?それに、名字は成田なんだ。

 色々な情報が、この免許証から得ることができた。決して、俺が強要したわけじゃないから大丈夫…だよな。

 「空さん!!私はどうすればいいと思いますか!?」

 「どうすればいい…って」

 酔った勢いなのか、大真さんは俺の顔面近くまで顔をもってきた。近い。

 もう少ししたら…くっつくぞ?喪失しちゃうぞ?

 飲んだ桃味のほろ酔い缶の匂いが口元からするのに…俺はドキドキしながら––

 「大真さんの好きなようにするべきじゃないですかね?」

 無難な答えを答えてしまった。決して、ビビったわけじゃないよ?


 大真さんはそんな俺の答えを聞くと、ムスッとした顔で––

 「そんなの聞いてるわけじゃないんですよ!空さん自身の願望を聞きたいんですけど!?」

 「願望!?」

 …あ、そっちじゃないよね。冷静になります。

 俺は、どうするべきなのか…少しだけ考える。

 普通に考えれば、きっとあの先輩のことだから色々な改善ややりやすいようにしてくれるはず。戻るべきなのかもしれない。

 「戻ってほしくないです」

 考えと気持ちは別の答えを出した。……本当にそれが大真さんにとっていいものなのかは別として。


 その言葉を聞いた後、大真さんは笑顔になった。

 俺はというと、急に恥ずかしくなり…俺もほろ酔いを一気に流し込んだ。

 「俺にも願望とかあるんだな」なんて、少し自分に感心をしながら。



 


 翌日。

 あの後、互いに電池が切れたかのようにテーブルに突っ伏する形で就寝した。

 先に起きた大真さんは、テーブルの上にあった残骸を片付けてくれていて、俺に「汗流した方がいいですよ」といってお風呂も用意してくれていた。

 「ふぅ~」

 ほぼ毎日シャワーを浴びるのだが、久しぶりに湯舟につかった俺はおっさんのように口から声が漏れた。

 別に期限を設けているわけではないけど、四時プロの先輩である煙火吹雪さんに大真さんは返事をしないといけない…それは、今日かもしれない。

 俺は昨日口走ったことを思い出し、恥ずかしくなりながらも––

 「どうするんだろう」

 本心が、湯煙と一緒に生まれ、消えていった。


 そんな時––

 「空さん」

 俺が目をつむっていると、すりガラス超しに声が聞こえてきた。

 「今日、吹雪さんとお話します」

 端的な言葉を発した大真さんの声は……少し震えていた。

 

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