配信開始

初配信1~炎上Vの誕生と本音~

 『夕焼空』…新しいVのアカウントが––様々なSNSで作成され、俺の手元にきた。


 「今までのアカウントは後々削除をお願いします」

 鈴さんからラインで届き、俺は「何でだ?」と思っていると––鈴さんは連続して書いてくる。

 「過去の事を掘り返す方がいるので……千里と空さんの関係がバレると計画的にも、声優的にもまずいですし。それに、空君さん自身にとっても心機一転で頑張れるのは良い事と思いますが?」

 「まぁ…そうですね」

 そこからは、鈴さんからの返信は途絶えた。…まあ、仕事もあるだろうし。

 俺は返信が来ないのを確認し、明日の配信準備に取り掛かる。


 「…怖いわ」


 そう呟く俺は––昼から酒を飲んだ。




 翌日。

 初配信の当日になる。

 昨日の内に分身の俺の動作確認を済ませ––今は俺自身の確認を行っている。

 「あ~…緊張…酒飲んで良いかな」

 メイクを終え、俺はアキバでも着けたウイッグを再度着け。仕上げに酒を飲んだ。

 配信時間は19時頃を予定している…今は17時か…。少しだけ飲んでもバレないよな。

 俺は冷蔵庫に残っている、封印していたほろ酔い程度の缶酎ハイを持ってきて––パソコンデスクの隣に置いた。

 「……っし。あとは宣伝と連絡待ちだな」

 

 配信者は“配信内容”には気を付けるのは当たり前…らしい。

 そして、一番大事になるのが“サムネイル”という––見出しみたいな物に気を付けるべきと言われている。

 俺は今まではそこまで気を付けることはなかったが、深夜に汎用できるイラストや画像を鈴さんが送ってくれていたようで…俺はそれを使用したサムネイルを配信予定の画面に設定した。

 


 「遅くなってすいません~」

 俺のラインに通知がきた。相手は鈴さんだ。

 俺はというと、パソコンの隣に置いたほろ酔いも飲み干し––少しだけ気持ち悪い。

 「今日の配信なんですけど、準備は大丈夫でしょうか?」

 「大丈夫で~っす」

 少しの間ができた…あれ?酒飲んでるのバレてる?

 「……とりあえず、今日の配信は短く、1時間以内を予定してます。それで、空君さんには顔出しで『放送事故』みたいな感じで最初お願いしたいです。それと、途中で荒れるようであれば…煽ってください。鎮火させようとはしないでください」

 そんな指示が出された…いや、無理だろ。

 「困った事あれば私がいますので!!頑張りましょう!!!」

 そう言って、指示出しの鈴さんは会話を終了させた。


 言っておくが、ラインに関してはパソコンにも同期させることができる。

 それに、通知音等の設定もできるので便利だ。


 俺は残り5分となった初配信のために、再度自分の分身のチェックとカメラのチェック…全て終えて、一息ついた。

 「さて…頑張りますか」

 俺は––戦場へと足を運んだ。







 

 配信がスタートされる。

 最初は著作権フリーのBGMを流し、閲覧者が増えて落ち着くまで待った。

 その間、俺は…こんな格好しているが、男らしく覚悟を決めた。

 …BGMも終わりを迎え、俺は最初の指示の通りにカメラを起動させ––

「やっほー!見えてるぅ?」

 Live2Dの俺を動かすように、手を振ったり、頭を振ったりして––『美少女Vtuberだよ!』と言わんばかりのドヤ顔をしている。勿論、ボイチェンはしていない。

 でも、“やっている体”で俺は頭や手を振る。

 正直、めっちゃキモイ。自分で言える…キモイ。

 

 コメントにはそんな道化のような––女装をしている俺を見て。

・キモイ

・え?初手から事故ってる?

・自作自演乙~

・コイツが千里さんを煽ってるやつかよ

・男?女?

…様々なコメントが流れる。

 それを、俺は無視し続け––やっとのことで“カメラが顔出しに気づいた!”…という体で配信画面を真っ暗に変えた後…最初の著作権フリーのBGMを流した。


 コメントは未だに荒れている…いや、まあ当然なんだけど。

 配信を見ていた鈴さんはラインで『グッジョブ!』というスタンプを打っていた。

 さて…これからはLive2Dでいいんだよな?

 「あ、最初は女装Vの方でお願いします」

 鈴さんからの指示が来たので––俺は女装しているVの姿を配信ソフトに登場させ、配信画面にも登場させた。

 配信はどんどんと荒れている、ここまで5分もしていないんだけど。

 「あー…あー…見えてる?ってか、ボイチェンできてない?」

 わざとらしいかもしれないけど、慌てている様子をみせる––声優の専門学校行っていたんだ…演技はできているはず。


・わざとじゃね?

・ってか、配信するなよ

・女装乙

 

 まあ、そんな感じになるよな。

 「ま、いいか!どうも、夕焼空っていいます~。可愛いでしょ?可愛いかろ?」

 頭をブンブンと振り––可愛さアピールをする俺。

 コメントにはいくつもの否定的なコメントが流れているが––少数だが、「可愛い」というコメントが流れた。少し安心できた。

 「ってなわけで、超絶美少女の私なんで!!」

 俺は念押しして、キャラを強めることに努めた。

  

 そこからは、少しだけ自己紹介を行い––自分の地位を確立しようと思った。

 大きな事務所ではない個人Vにはこれが凄く大事なんだ…と俺の前世で痛感したから余計に念を押してアピールした。

 しかし…ってか、やっぱりなんだけど––リスナーから聞きたいことは1つ。

 

『山田千里のプロフを使って宣伝し、炎上させた件』だ。


 俺はあえてスルーし続けたが…ネットニュースにもなっているのか閲覧者が一気に増えたところで––俺は鈴さんに助けを求めた。

 すると、鈴さんの回答は簡潔。


 「炎上させましょ!!!!!!!!!!!!!!!」


 それだけだった。

 俺はマイクに通らないようにため息をし––指示通りにすることにした。

 「え?山田千里の件?…はあ、正直言ってさ!?皆騙されてない!?バカなの?君たち。アニメとか漫画の見すぎだって~笑っちゃうわ」

 一度、口直しのために持ってきたコーラを一口飲んで再度畳みかける。


 「あのさ、可愛いとか綺麗とか…見た目だけで判断できるものなの?それこそ、君達が勝手に想像して作り上げた妄想人間じゃん。それを、天使役か何か知らんけどやっている若手声優に夢見て…それこそ、本当にキモい。それなら、この私の方が断然可愛いだろ!?違う!?」

 

 …千里の事は傷つけてないし、別に大丈夫だよな。

 俺は畳みかけていった後、心配になってラインを見たが––鈴さんは別に怒っている様子はなかった。


 「あ~、君達のせいで。この美少女傷ついたわぁ~…ってか、マジでさ!!君達の言動が全てを壊すことくらい気づけよ」


 半分本音を言ってしまった…まあ、いっか。

 でも、一応配信が荒れすぎているので––「トイレに行く」といってBGMオンリーにさせた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る