次のステージへ。俺は赤く染まっていく。
結局、俺が赤スパ(高額コメント)をして数時間。
同期させているSNSのアカウントに『聖者の千里様』信者の皆が一気に流れ込み––ネットニュースになるほど荒れたのだった。
……それを、俺はずっと無視しつづけ。聖者ではない––俺の雇い主ににもなる––普通の千里から連絡するのを待った。
あの配信後も恐らく収録やレッスン等もあるんだろう……結局、連絡が来たのは夜の20時を過ぎた辺りだった。
「やっほー、今日は冷や冷やしたわぁw事務所には小言言われちったwww」
緊張感のないラインが俺のスマホの通知に出てきて、俺は早速怒りの返信をする。
「もっと上手く嘘つけよ」
「いやぁ~…メンゴメンゴww」
本当に危機感のない文と今流行っている––ゆるふわなアニメのスタンプを連続で投下してきたのには…正直イラっとした。
「で?昨日の成果はどうなのよ?今、俺んとこにめっちゃ誹謗中傷きてるんだけど」
「あ~見た見た!面白いねぇ“それ貴方の感想ですよね?”って言われてて!〇ろゆきかよww」
俺は文を打つのがめんどくさくなったので、デフォルトで入っている黄色い顔をした人間の怒り顔で返信をする。
すると、すぐに先ほどのアニメのスタンプで返したと思ったら––少しの間を置いて、おふざけモードから真面目モードへと切り替たかのように返信してきた。
「これだけすれば十分かな?注目度も上がっているみたいだし…次にいこうか」
この文が出てきた後、直ぐに画像が添付された––今後のスケジュールと自分の分身になるVの完成のデータが送られてきた。
俺はその画像とデータを確認する。これが、前にも見たけど俺の分身で…あれ?配信スケジュールは2日後からになってる…。
「これってなに?」
確認のために、俺は千里へ返信する。
「これから空君に配信してもらうスケジュールだよ。それに、このデータもアプリで動くはずだから。自宅に配信環境あるでしょ?」
「まあ。…でも、こんなにアンチで湧いているのに配信して良いのか?絶対に千里の事とか聞かれるでしょ」
「…それは、今後の為に絶対に相手にしないで。計画があるの。ただ…今日は本当にごめん。私の失態だった。少し気が緩んでたわ」
俺は少し驚いた。素直に謝ることに。
「で?この日に配信するとして…どんな話をすればいいんだよ」
「グループにしてもいい?」
俺の質問に対して、全く違う回答が返ってきた。しかも、俺の了承を得ずにアカウントが一つ追加された。
「はじめまして?こんばんは?」
そんな文が追加されてすぐに送られてきて、千里はアニメのスタンプで返事し、俺は状況が把握できないから無言でいる。すると、追加されたアカウントは自己紹介を始める。
「山田千里のマネージャーの 天音鈴(あまねすず) と申します。スズちゃんとか言ってくれると嬉しいです」
あだ名まで指定してきた…コイツがマネージャーなの?
「で、空君さん…ですよね?2日後に初配信する」
ギョギョギョとかパワー!とか言う人みたいに“君”までが名前ではないぞ。
それに、マネージャーの方が何故に俺に連絡を?
「千里から色々と空君さんのことは伺っておりますし…この計画に関しても“一友人”として参加させていただいております。事務所の力を使って何回かはうやむやにはしましたけど」
参加だと…?
「先日、女装でアキバを歩いた事とかも全て私と千里が計画していたんですよね。多分、千里の方から軽くではあるけど…聞いてたはずですよね?」
「言ったよ!」
俺を置いてけぼりにして、俺以外の2人は話を進める。
「まず、最初は千里が“これをしたい”っていう明確な夢はなかったんですけど…デビュー以前から空君さんの配信を見つけたようで…」
「そうそう!最初はバカな奴がいるなぁ~って思ってたけど、配信内容とか見ていると『あれ?私を知ってる人じゃね?』ってなってね!」
「そこで自分の殻を破る意味もこめて“Vtuber”をやりたい!プロデュースもしたいということで…今に至るわけなんですけど」
俺は今までの経緯の答え合わせをマネージャーの鈴さんから全てを聞かされた。
よし、一度整理をしよう。
・以前から俺の配信を千里は聞いていた(顔出し時代からの古株らしい)
・千里はVtuberに興味を持った
・マネージャーは一個人として参加、計画を練っていた。しかし、何かあれば事務所の人間として処理していた
・事務所の力は凄く強い、お金も出していた可能性あり(これまでの曖昧になってるのはこれで解決してたのか…?)
…ってとこなのか?
「あとは…そうですね。事務所の偉い方はこの計画を詳細に知らないんですよ。だから、昨日の件とかは…正直言って“ソラっていうVtuberの個人的な行動”として処理をしているので、空君さんには色々とご迷惑おかけしてます」
「あ~…いや、何となくですけど納得しました」
まだわからないこともあるが、何となく把握はできた。
千里は空気を読んだかのように、マネージャーの鈴さんが語るのをスタンプで相槌する程度にしている。
「で、これからのお話なのですが…千里は今回のアニメが終了するまではこれ以上Vtuber計画に関しては関与しません。契約とか色々とあります…って元声優だったらわかりますよね。すいません」
「空君は声優事務所に行ってないよ!」
「どうでもいいでしょ」
俺は千里にツッコミを入れると、鈴さんは「すいません」と短文が打たれた後––今後の事について更に述べる。
「千里自身も今後Vtuberとしての活動を予定しております。事務所には内緒…というか今後の活動の様子を見て方針を固めたいと考えております。また、空君さんにはそれまでの間ダークヒーローみたいな立ち位置として活動することを望んでおります…ということで、2日後の配信に関してなのですが––」
「ちょ、ちょっと待って!」
千里もVに?…ってか、事務所には内緒…?よくわからないんだけど。
「…まあ、詳しい話は2日後の配信後ですかね?反応も見たいですし。千里自身も賭けにはでているようですけど…ハイリスクでローリターンでは意味がありません」
「…確かに」
ってか、千里よ“気持ちいいぃ~!!”って書いている汗だくおじさんのスタンプ送るなよ。場違いだぞ。
「で、話は戻しますが––2日後の配信内容に関しては、私が裏で空君さんへの指示を行います。…困った際には私も出演しますので、安心してください」
…千里があの芸人の“履いてますよ!”っていうスタンプを載せてきたんだけど…スルーしとこ。
「なるほどですね…。わかりました」
俺は少し安心した。千里の件に関しては必ず出るはずだ…だから、それを誰かが指示してくれれば、俺は少し楽になるだろう。
千里は場の空気を読まずに、再度“履いてますよ!”スタンプを載せてくる。
それを、俺とマネージャーはスルーすると––マネージャーは更に配信について注文してきた。
「ところで…その配信に関してなんですけど、最初は女装姿で出てください!加工で何とかできるはずですし、インパクト残したいので!」
頭が痛くなってきた。
「ってことで、明日に私の方から再度連絡しますので!今日はこの後も色々とありまして…すいません」
「鈴ちゃんがんばれ~!!えへへ!!!」
「酒飲まないで休んでください!」
俺を置いてけぼりにし、このグループの会話が終了した。
その後、マネージャーの鈴さんから俺宛に友達登録がきて––友達になった。
翌日、明日に控えた配信の前に––千里とマネージャーから連絡が来た。
『この新しいアカウントで今後活動してください!』
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