油を頭からかけるVがいるってマジぃ?

 とある有名〇-チューバーは言いました。

 「炎上した方が集客力がある」と。

 実際、その方の後の行動の一つ一つにコメントだったり––場合によってはニュースにもなる程の––影響力を持った。

 俺は…そうなるのだろうか。


 

 現在、俺のSNSに来るコメントの大半が人格否定に近いコメントが主だった。

 「鏡みて言え」「千里様に迷惑だろ」「売名乙」…本当に多種多様。

 これがデパートなら、きっと大繁盛しているんだろうな。

 「はあ、昨日の俺よ。本当にお疲れ様だわ」

 自分にきたコメントの中にあった––女装した俺を見ながら呟いた。

 自分の中では、プロがメイクしたこともあり––なかなかに可愛いと思うけど…ネットってそれでも叩く奴はいるもんだよね。


 一応…炎上した後の対処法というのは、炎上した奴の言ってた事をメモにして対処法を自分なりに考えている。それに、千里が事務所で配られているSNSの利用方法の参考書に載っている炎上した後の対処法を千里の文字でまとめて送ってくれていた。

 それを––俺は実行することにした。

 「…無視しよ」

 事実、炎上した後の行動は全てが“油に火を注ぐ”という形になることが多い。

 確か、先日も大手Vの人が謝罪したけど『誠意が感じれない』とか言って更に炎上してたもんな。だから、俺は無視をする。

 

 しかし、俺だって人間の心は存在するもんだ。

 今日は自宅警備員の任務を直ぐに終える事に決め、最近ハマっているゲームに精を出すことにしよう。

 「さ~、今日は誰をヤろう」

 洋ゲーに『実際はできない事ができる』ゲームっていうものが複数存在してて、俺はその中の一つ『ATG』という何でもありなゲームをアルコール度数の低い缶酎ハイを持ってゲームをスタートさせた。

 「あ、そうだ。動画動画!」

 俺の家には無駄にテレビ兼モニターが2台ある。

 配信用とコメント見る用にとマルチモニターで配信するようにしたのだが、今これを活用するのはこれくらいなんだよな…いつかはこれ以外でも活用させたいな。

 「とりあえず…これでいっか……ん?配信か。まあ、CMないしいっか」

 動画配信サイトを軽くスクロールし、俺は適当に若手声優のおしゃべり動画をクリックした。

 黙々とゲームに集中することも良いんだけど、何か一人暮らしを始めると寂しさ大きくなって––「誰かの声を聞きたい」って思っちゃうもんだよ。わかるでしょ?

 だから、俺は何気ない会話をしている動画を見ながらゲームをするんだけど…これ、千里いるじゃん。

 俺はゲームをしながらも––俺には聞かせたことのない––清楚声で男性MCとおしゃべりをしている千里が…ゲームをしながらも目に入ってきた。


 配信上で色々な無難な話が聞こえてくる。

 「どんな服が好きなのか」「好きな食べ物はなんだ」とか––本当に聞いてて有益になる情報なんて全くないような…くだらない話で笑いあっているのが聞こえてくる。

 俺はそれでも“炎上させるようにさせた張本人”でもある千里に目が行って、ゲームに集中できずに何度もゲームオーバーを繰り返した。

 「さて、今からはコメントの質問を拾っていきましょうかね」

 そうモニターに映っている男性MCが言うと、コメントは一気に流れていく。

 この配信を今まで見たことはなかったし、興味なんて全くなかったんだけど––リスナーでもある人が『この記録やばくね?』って書いてたから…きっと、若手人気声優だけではなく、昨日の炎上に関連していることが原因なんだろう。

 「…変な事言わないでくれよ」

 俺は缶チューハイの残りを一気に飲み干し––ゲームを止め、画面に祈った。

 俺からすれば、何か言われれば…油というよりもガソリンに火が灯る––それくらいに危ない橋を渡ることになる。

 …まあ、千里はプロだし…華麗にスルーするだろうと思うけど。

 そんな、色々な感情を抱きつつ、男性MCは有料コメントで出した質問を拾い上げた。

 「先日、アキバで千里さんの顔写真のついたプラカードを持った女性?男性?が歩いていたんですけど、これについてどう思います?」

 …は、やっぱり。まあ、聞きたいだろう。

 千里はその質問を読み上げる男性MCに分からないように、眉毛がピクッと動いた––顔色は未だに変えてないのは流石だが。

 「私は存じ上げてないです…。すいません」

 千里はテンプレートのような回答を笑顔を崩さないままで答えた。

 しかし、それでは面白くならないと––男性MCは付け加えて質問をする。

 「そうですか?なんか、この歩いていた方が配信で『千里と同級生だ』って言ってたって証言もあるんですけど」

 …動画は削除したはず。でも、誰かが聞いてたんだろう…。

 千里はその言葉を聞いた後、目に見えるくらいに大粒の汗をかきながら––極力笑顔を保ちつつ––

 「そうなんですねぇ~…まあ、専門学校に入る方全てが善人ではないですし…」

 答えが何か政治家っぽいとは思うが…精一杯の答えをだしている。

 ましてや、今俺の目に映る千里の姿は––白のワンピース姿でキャラを維持するのに必死のようだった。

 男性MCは「そうですか」と一旦はこの話題を流していたが、コメントが更に追い打ちをかけるように流れると––撮り高をねらった男性MCは追及することに方向転換した。

 「専門学校…?私は言ってませんけど。もしかして…本当はお知り合いではないんですか?」

 「…ひっ」

 小さい声だけど、千里がとどめのアッパーを食らって––フラフラの状態なのが画面越しにでも伝わる。

 コメントの方も「マジ?」「声優業終了のお知らせ」「あーあ」等落胆や煽るように流れ––場の空気が画面越しでも修羅場になっていることが理解できた。

 俺はいてもたってもいられず––なけなしのお金を使って––赤スパ(高額コメント)でコメントをした。

 

 「やっぱ、私の方が可愛いじゃん!」

 

 …せめてもの救いになればと、俺は自分に油をかけて火をともした。

そうすれば、きっと…俺しか火事にはならないだろう。

 それに、今千里が炎上してしまえば…共倒れになってしまう。

 だから、俺は精いっぱいの助け船を出した。

 

 コメントには「本人来たー!!」等といったコメントが流れだし––一時コメントが停止するほどになった。

 それほど、千里の『清純そうな見た目、声』というに対して––攻撃したとされる俺は物珍しい、アホな奴だと思われたのだろう。

 赤スパを読んだのだろう、男性MCはより詰めようとしたが––番組の進行を妨げることになる俺のコメントを番組は削除し、無理やり先へと進行を促した。

 千里の方も、手元に置いている水を何口か飲むと、普段の清純キャラの千里へと戻った。

 そこからは、また無難な会話が繰り広げられた。

 

 ゲームオーバーの画面のまま先に進んでいないゲームを見ながら俺は呟いた。

 「これから…どうしよう」

 番組中からずっとスマホが鳴りやまない––アンチコメを見ながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る