職業?なにそれ、美味しいの?
自宅警備員の仕事は…本当、最高や。
こうやって––寝ゲロをしても怒られることなんてないし。
まあ、これを処理してくれるような––素敵なメイドがいれば尚最高なんだけどね。
「お前は使えない奴だ!」
この職業に転職する前までは––そう言われることが日常茶飯事だった。
俺は芸能界での仕事に憧れてはいたが…働かなきゃ生きていけない。
だから、バイトだけども時給の良いコールセンターでバイトをしていた。
しかし、どこの会社でもある“無能上司”の罵詈雑言を何度も受けて続けていると––俺の精神はポッキリと折れてしまった。
ここからは元同僚が言っていたのだが…あの青い狸みたいなロボットの尻尾を押すと電源が落ちてしまうように––俺は倒れこんだらしい。
そうなると––どの人でも同じように行動するしかない––つまり、退職だ。
でも、今の日本はいいよね!“失業保険”ってのがあるんだから。
だから、それを俺の給料として【自宅警備員】をしている。
自分の服とキーボードにかかったアレを綺麗にシャワーで流し、奇跡の復活を狙ってキーボードを天日干しにした俺は––今度はちゃんとした水でのどを潤した。
「はあ~…またやっちゃったよ」
俺の家計は別に酒豪じゃないからなのか、ビールを少し飲んでも直ぐに酔いつぶれてしまう…やっぱ、酒はダメだよね~…。
一応、自宅警備員に転職する際にパソコン周りの物のストックは買っていたから良いんだけど…本当、無駄なお金にはしたくないよな。
動作確認を終え、再度パソコンをフリーズ状態から立ち上げると––通知のマークが“1”と浮かびあがっていた。
「あれ?またイイネとかか?」
でも、通知の欄は呟きの方に点いていない…あれ?DM(ダイレクトメール)か?
…とうとう来たか?…誹謗中傷か?––それとも、殺害予告?
「怖い事書いてないでくれよ…?」
怖いけど、誹謗中傷とか諸々とあれば––ネ、ネタになるもんな。
俺は震える右手を左手で抑えつつ––DMの欄をクリックして––内容を確認した。
「あれ?コイツ…」
サイトの公認マークがついている––元友人でもある––声優のアイツか…。
俺は、殺害予告ではないことに安堵しつつ…別の恐怖が襲ってくる。
「…事務所が怒ったのか?」
俺の存在は消される運命なのか…そういえば、最近国民的アイドルが不倫とか何かしたのを配信者が暴露したら––存在を抹消されそうになったもんな。
俺も同じ運命なのか…ああ、ラーメンもっと食いたかったな…。
でも、DMの内容がそこまで書いていないし…。
「って、あれ?何で俺の存在バレてるんだ?」
今使っているアカウントは別に実名を出していないし––ましてや、何気ない呟きしかしてない…はずだよな?
これなら––とぼけることできる!!––一応、謝罪をすれば場は収まるはずだ!!!
早速、俺はキーボードで相手に返信をする。
「DMありがとうございます。今回、貴方様の名前を出して売名行為をして申し訳ございませんでした。もう二度と名前を出しませんので…どうか、隠密にお願いしたいところでございます…申し訳ございすえん」
…誤字ったのを確認したのは、送信した後だったけど––これは…大丈夫かな?…って、もう無理だ。見てられない。
俺は未だに震えている右手と冷静に保とうとしている左手を安らげるため、一度パソコンから離れ––伸びをした。
「はあ…炎上って怖いわぁ~!!はっはっは~…」
別に炎上しているわけではないが、そう言っておかないと…自分が分離して、爆発しちゃうんじゃないかという––怖さを––笑っていられない。
酒の気持ち悪さも相まって、今は凄く気分が悪い。
訴える?裁判?…逮捕なんて––ないよな?
気持ちが段々と落ち込んでいく…人生詰んでいたけど––王手されたな。
「ド派手な人生にしたかった…」
俺はそう呟くと、ビールの代わりにコーラを一気に飲み干した。
そこから、数分もしないうちに返信が返ってきた。
今のSNSっていうのは通知音や相手が何か書いていることがわかるんだね。凄い。
相手からの返事がきた。
「空君でしょ?」
なんとも呆気ない返事だったので、俺は呆気にとられた。
「えっと…私の名前は確かに“ソラ”ですが…漢字ではないです…。もし、私を知ってくださっているのであれば嬉しいです。今回の事は本当に申し訳ございませんでした」
そう返信して後––事を終わらせようとした。
しかし、返信した数秒後に相手から側のアイコンがピコピコと光り––ペンが動いている。
「うぇ…、まだ何かくるのか?」
というか、今更だけど相手のアイコンって自撮りなのか?––やっぱり、何年も連絡してなかったら多少変わるよなぁ~…お金持ってる奴ってマジで“いい歳のとり方”するよな。
「いやいや、わかってるでしょ?私、山田千里(やまだちさと)だよ?」
「はい、存じ上げております」
「昨日、呟いてた内容って…ってか、その前の配信も全部“私”のことでしょ?」
「…えと…はい、そうです」
うわ、本人にバレてるのかよ。しかも、配信見てただと!?
「“はい、そうです”ではないよ!君の事、私の事務所も把握して…案外、危ない所だよ?」
「マジですか…」
「で、何で私がDMしているかってわかる?」
「えと…果たし状?」
「ちゃうわ!!」
「え?じゃあ…?」
「配信で聞いたけど、専門学校での話を知ってるのって同級生しかいないでしょ?ラジオでも話したことないんだし」
あー…なるほど。酔ってて覚えてないけど言ってたのか。
「でね?今、君は自宅警備員…?何かわかんないけど、暇しているんでしょ?」
「暇ではないです」
「じゃあ、事務所総出でいくよ?」
おい〇ッキーナみたいなこと言うなよ。
「冗談冗談♪でも、事務所が動こうとしているのは事実だからね?…で、何で私が直々にDMしているか…それは、君の活動の支援をしようと思って」
「…は?」
「だって、専門学校の友人だからね!手助けしたいでしょ?」
あ、もう俺は専門学校時代の友人の 大川空(おおかわそら) で確定してるのか––そうなんだけど。
「で、これからは“一友人の山田千里”で支援するから…ライン教えなさい」
「…あ、はい」
ここで抵抗すれば、再度脅しがきそう…ってか、専門学校から変わらない性格だから引き下がる事ないだろうし––俺はラインを教えた。
「じゃ、今度はこっちから連絡すっからね!?あと、今回の事は無かったことにするから呟き消しておきなさい」
俺は、「はい」としか言えなかった。
自宅警備員の職務はこれにて終了するんだろう。
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