女装Vtuberは(元)友人と喧嘩を売る。そして、炎上する
いぬ丸
炎上と転生のV
炎上すらしない…だと!?
「俺の友人は今話題のアニメの主役なんだよ!!…元だけど」
今、俺はパソコンのモニターに頭を振りながらそう言っている。
モニターには自分にはあまり似ていないアバターが自分の動作と連動して頭を振っていた。
専門学校を卒業して早3年。
俺は芸能界に憧れて––上京して––今、無料で作れるVtuberアプリで雑談配信をしている。
閲覧者は1人––テストのために違う端末で聞いた自分しかいない。
「…俺は…何してるんだろう」
ふと、自分がしている事への虚しさを手元に置いているビールで流し込んだ。
『Vtuberが熱い!』
そうネット界隈やオタク向けショップで目に見えて分かるくらいに流行っていることで––挫折した自分でも人気者になれると思い込んでしまった。
でも、こうやって“現実”という結果が自分を毎度毎度襲ってくることに嫌気がさす。
配信時間は1時間は超えている。【長時間配信は閲覧者数を稼ぐには最適】とネットに書いているから自分が配信するときは最低でも2時間は配信することにしている。
でも、何度も言うが誰も来ないことに虚しさと嫌気が襲う。
「…配信終わるか」
心が折れた…現実の俺の顔は酒に酔っているにしても笑顔は無く––悲しいんだが。
モニターの仮想現実の俺は笑顔で手を振っている––皮肉だよな。
「どうすれば…人気になれるんだよ」
配信を終えた俺は––酒を一気に飲み干し––ネットサーフィン兼情報収集をすることにした。
時間は豊富にある…仕事なんて知ったこっちゃない。
「んー…コレって…」
動画配信サイトをスクロールしていると、ある一部分が俺の目についた。
⊡【売名】有名配信者の〇〇に凸してみたらヤバいことになった!【炎上確定】
その文字が俺の目の前で踊り、中身を見る。
動画の内容としては––所謂『釣り動画』といわれる––しょうもない内容だった。
しかし、そんな内容何て関係ない…答えがここにあったんだ。
俺は早速VtuberのSNSアカウントで呟くことにした。
「アニメで大活躍している〇〇〇〇の元友人ですっ!専門学校時代の暴露をします!!」
そう呟く––なんか、ヤバい事をしているんだとは思っている。
でも…へへ、酒の勢いもあってか止めることはできないもんね。
「とまらねぇぞぉ~!!!」
某有名Vtuberの口癖をマネしながら––酒に溺れた俺は––眠ってしまった。
次の日。
俺はパソコンのモニターの光が朝日のように目を覚ました。
「うえ…気持ち悪い…」
キーボードを枕にしていたからか、顔には凸凹した跡がついている。が…今は命の水(酒)で埋めることが先決だ。
俺はそう思うと––フラフラしながら––冷蔵庫に入っているアルコールを一口すすった。
「あぁ~!!!!!!!!!!!!!!!」
体中に血液が回るかのような感覚が僕を回復させていく––幸福だ。
そんな幸福感と仕事をしていない背徳感––そして、アルコールの海に溺れていく感覚に自然と絶叫してしまった。生理現象だよね。
「さて…」
一口つけたアルコールの缶を持って––俺はパソコンの画面と終わらないにらめっこを始める。
昨日、酒の海に溺れてしまう前に呟いたこと…俺は溺れながらも覚えていた。
「炎上…してるよなぁ~」
勢いで書いてしまった暴露系配信者の真似事…。
暴露系配信者は一気に知名度が上がるが––正直、小心者の僕には身がもたない。
誹謗中傷は当たり前…殺害予告だってくる––絶対に無理だ。
「ん…よっし…」
アルコールの缶の中身を一気に飲み干し––ワンクリックするのに5分かかってしまった。
そんな気合…弱気な俺は––拍子抜けした。
「あれ…?通知なにもないじゃん」
パソコンに映った俺のSNSのページには––イイネBOTからのイイネしかなかった。
まあ、確かに––フォロワーなんて10人程度しかいないし––そんなものなのか。
俺は空気の抜けた風船のようにパソコンデスクに倒れこむと…酔いも一気に回ってきたのか––気を失った。
そこから、数分後。
アルコールの海で遊泳中の俺に一通のDM(ダイレクトメール)が届いた。
『もしかして…空君!?』
SNSの公認マークがついた声優からのメッセージに気づいたのは––半日後のことだった。
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