シレネ
「せつか」
……呼ばれた私は顔を上げ、彼女と甘いキスをした。裸の身体を寄せ合って、息が苦しくなるほどに。
「ふふふっ……、可愛いね……」
彼女の指が胸に触れ、些細な刺激を呼び起こす。私はシーツにしがみつき、必死に声を押し殺した。
「我慢しなくて、いいんだよ……。ほら、気持ちいいでしょ……?」
小さな突起を弾いた後は、下肢の方へと手を下ろす。彼女の淫らなルーティンは、私の心をいざなった。
「ここがいいんでしょ……? こうやって、優しくさぁ……」
「んっ……! あぁっ……!」
喘ぎ声が漏れた途端、彼女は一気に攻めてくる。恍惚とした表情で、私の弱いところをいじってくる。
「可愛いね、せつか……! ホントに、可愛いよ……!」
「あっ――!」
――心の奥がビクンと跳ねて、そのままふっと力が抜けた。私は近藤まひると出会ってから、何度もこういう気分になった。
行為を終えた私たちは、ベッドの上で横になった。青白い月明かりが、ホテルの床に光を落とす。
「……もしもし? おじさん?」
彼女はスマホをいじくって、知らない男性と電話を始めた。私のことなどお構いなしで、楽しそうに談笑する。
「……あたしに会いたくなっちゃった? ふふふっ、いいよ。どこにする? ……あのトイレはダメ! クサいし、汚いから」
……彼女はこういうやつなんだ。枕に顔をうずめながら、私は一人で悲しくなった。最初に出会ったときから、彼女はこういうやつだったじゃないか。
「……はーい、分かった。じゃあね、ばいばーい」
彼女は電話をし終えると、私に「ごめん」と謝った。「おじさんが会いたがってるから、もう行くわ」とも言った。
「……何で、行くの」
「何でって、呼ばれたから」
「……あっそ」
ふてくされでもしてみたら、彼女は留まってくれるかと思った。でも、無駄だった。彼女はそういうやつだから。
「じゃーね、せつか。また、学校で」
猫のような足取りで、彼女はホテルを後にした。ヤキモチを焼く私のことを、広いベッドに置き去りにして。
何で、他の男と遊ぶの。
デートだとか、エッチだとか。私の気持ちを惹くだけ惹いて、飽きたらさっさと放り出す。……嫉妬せずには、いられるか。
ずるい、本当にずるい。援交のくせに、援交のくせに……。
彼女が「じゃーね」と言う度に、私の心に穴があく。私は何だか虚しくなって、一人でそっと、涙を流した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。