ウツボカズラ

 近藤まひるの性格は、快楽主義の塊だった。お金の許す限り好きなものを食べ、気の向くままに化粧をする。そして、自分の性欲が満たされるまで、何度も何度も身体を許した。


「せつか」

 半端な時間のファミレスは、混雑がなくて気が楽だ。私は彼女と向き合って、黙々とペンを動かしていた。

「ねぇ、せつかったら」

 不機嫌そうな顔をして、彼女は私の頬に触れる。そのまますうっと顎をなぞり、首の筋まで這わせてきた。

「せっかく店に来てるのに、作業ばっかりじゃつまんない。あたしのこと、構ってよ」

 パフェの苺を掬い取り、「あーん」と言ってこちらに向ける。私がそれに応じると、嬉しそうに目を細めた。

「可愛いね、せつか。ホントに、可愛い」

「……やめてよ、それ。恥ずかしい」

「何でさ。可愛い子には、『可愛い』って言うの」

 思ったことを、口にする。彼女はある意味、素直だった。

「てかさ。さっきから、何描いてるの?」

「部活の原稿。今週中に、仕上げないと」

 タブレットの真ん中に、黒い線を走らせる。漫画研究部の仲間から、「締め切り厳守!」と言われているのだ。何としても、仕上げなければ。

「へぇー。そりゃあ、大変だねぇ。でもさぁ、わざわざデート中にやるかね?」

 ……そんなこと言ったって、私は何度も断った。彼女が無理やり手を引いて、私のことを連れ回したのだ。

「せつかー、ポテト頼んでいい? あたしと二人で、半分こしよ」

「いいよ、別に。好きにして」

 彼女は「やったー」と言いながら、人懐こい笑みを浮かべている。太陽が輝く時間帯は、彼女は子犬のようだった。

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