私の人間

こかぜ

私の人間

 あるところに母親と子供が2人で仲良く暮らしていました。母親はママ、子供はみさきちゃんといいました。ママはとても優しく、みさきちゃんの料理を作ったり、お洋服を洗濯してあげたりしました。みさきちゃんはとても良い子でママの作る料理は全部大好きでした。大好きなはずだったのですが…


 「みさきちゃん、なんでママの料理残すの?」

「……だって、ピーマン嫌…」

「みさきちゃんはママの作ったもの全部好きでしょう?ピーマンは苦手かもしれないけど、ママがおいしく食べられるように工夫したんだから。残すはずないじゃない。だってママの作ったものなら何でも好きなんだもの。」

 ママは目尻を下げ、口角を上げてみさきちゃんにいいます。みさきちゃんは勢いに押された様におずおずとピーマンを口に入れました。しかし、すぐに口から出してしまいました。

 「ご、ごめんなさい、にがかったからぁ」


 それを見たママは急にその顔を真っ青にし、みさきちゃんの肩を掴むと、

「何で?何でママが作った料理なのに食べれないの?みさきちゃんはママが作った料理は全部美味しそうに食べるのに。そうなってるのに!」

と叫びだし、頭を自分の肩に押し付けました。

「なんでェ、な、なんでなの?壊れちゃったの?」

ママは狂った様に呟き始めました。そしてみさきちゃんの頬を手で包むとじっと見つめました。憐れむ様な目つきのママの眼からポタポタポタポタと涙が溢れ落ちます。それを見たみさきちゃんは唇を歯で噛み、黙り込んでしまいました。


 「どうして思った通りにならないの?みさきちゃんはママの子供なのに。わ、私が作った私の子供なのになんで?」


「みさきちゃんはママの作った料理は全部好き、好きな色は緑。1番のお友達はともかちゃん。読書が好き。ねぇ、私が1番良くみさきちゃんのこと知ってるでしょう?だって私がみさきちゃんの母親だから。私が作った私の人間だから!」


 ママはそう一気に言いきり、それから頭を抱えて呟き出します。

「でもなんで私が作った通りにならないの?壊れちゃったのかなぁ?壊れたんだ、きっと。あぁ、直さないと。直さないといけない。直したら、そしたらきっと私のみさきちゃんに戻るわ。」


 明くる日、ママとみさきちゃんは2人で仲良くママの料理を食べていました。みさきちゃんはママの作ったピーマンの肉詰めを美味しそうに食べています。

 「ねぇ、みさきちゃん、ママの作った料理は全部大好きだよね。」

と、ママがみさきちゃんに微笑みました。



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私の人間 こかぜ @Vllse

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