第3話 色めき立つ少女

カッカッカッと普段は履かないような高さのヒールを鳴らしてカナブンの死骸が転がる汚い階段を登る。

童話のお姫様ならこんな階段登らないのになぁと思う。

所謂、キャバクラで働き始めて5回目の出勤。

最初は化粧やドレスで煌びやかになる自分に浮いた心になったりもした。

可愛いね、気が利くね、と褒められるし、初めてお給料を手にした時も驚いた。

階段の先では大金が動く世界で気の利く綺麗な嬢に大変身。

だから煌びやかで美しい世界に見えがちだけれど、実際は靴擦れした足で汚い階段を踏みしめながら登っていく庶民。

とはいえ、漫画やアニメで見るようなイジメだの怖い先輩だのは全然いないし、ボーイも店長も迷惑かけなきゃいい人達だ。

お金を稼ぐ上では何も嫌ではない、はずなのに、出勤するたびになにかどろっとした後ろめたさがある。


「おはようございまぁす」

重い扉を開いて、寝癖のついた金髪を揺らしながらカッカッと歩いて入っていく。

「れい、授業寝てたのかー?大丈夫?」

れいは私のこの場所での源氏名。

「へへぇ、だって眠すぎて…やっぱ昼も夜も動くのって大変っすね。」

「まだ若いのにそんな事言って…そんな顔してたら指名もらえないよ〜。」

マネージャー、腫れ物に触るような話し方なのになんだか上から目線なんだよなぁ。

「今日は土晩だし、お客さんたくさん来るだろうから、しっかり連絡先交換しなきゃね。」

「はぁい、とりあえず着替えてきまぁす。」


ブブッとスマホが鳴る。

『心配だから、バイト終わったらまた連絡いれててね』

こうくんからだ。

心がほっこりする。

大丈夫、こうくんと同棲するためだもん。

私は頑張れる。

『りょーかい!』

「れんちゃーーん、指名のお客さんだよー!」

「…はぁい!」


ポシェットにライターと名刺とミンティア、スマホをいれて。

「よし。」

逆には馬鹿にされ、客を馬鹿にして、駆け引きしながら自分の価値を定めていくこの世界に早く慣れないと。

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