第32話 最強の下等生

 ゴーレムの力をさらに開放するのだ。実は今のゴーレムの仕様は試合用なのだ。今からこのゴーレムを戦場仕様に切り替える。



(くっくっく、小僧め。死んでしまえ。試験中の事故は殺人には問えない。無論、俺の評価が下がるが、特待生(エルダー)を、いや、俺を小馬鹿にした罰だ)


 試験官は躊躇することなく、戦場仕様に切り替えるボタンを押した。


 するとゴーレムの動きは明らかに変わる。スピードが二倍になり、攻撃に破壊力が増す。ゴーレムの関節は軋み、身体から煙を上げるほどであった。


 もはやゴーレムはただの殺人マシーンと化した。これでリヒトは余裕など見せられまい。それどころかその命も散らすはずだ。


(その綺麗な顔を吹き飛ばしてやる!)


 試験官は心の中で叫んだが、その叫びは空しく響き渡ることになる。

 


 五分後――



 殺戮機械(ジェノサイド・マシン)と化したゴーレムはリヒトを圧倒することはなかった。


 それどころか、

「……そろそろ五〇分か。本気を出すかな」

 リヒトは、そう涼しげに言うと攻撃を開始した。


 まずは右足の関節を攻撃。動きを遅くさせると、左足、右足、左手、と次々と関節をピンポイントに攻撃する。最小の動作、最小の威力でだ。それでゴーレムの機動力と攻撃力を奪うと、剣をするりと抜く。


 輝かしい白刃が光る。


 その剣でゴーレムの視界、単眼を突き刺すと、ゴーレムにとどめを刺す。


 無論、ゴーレムは死ぬまで活動し続けるが、機動力、攻撃力、視界を奪われればどうしようもない。試験担当官たちはリヒトの勝利を宣言せざるを得なかった。三人いる審判のうち、ふたりまでがリヒトの勝利を宣言したあと、試験官は渋々、彼の勝利を宣言する。


 力なく上がる勝利判定の旗。


 試験官はまるで自分の生き方そのものまで破壊されたかのような敗北感を味わう。なぜならばゴーレムを破壊したリヒトは汗ひとつかいていないからだ。

 このようにしてリヒトは勝利を得た。


 しかも宣言したとおり、ぎりぎりの評価点で。


 その事実は瞬く間に教師陣に知れ渡り、リヒトは入学初日から教師からこう二つ名されることになる。


 最強の下等生(レッサー)

 と。


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