第29話 料理の腕前

 結論から言えばアリアローゼの弁当は美味かった。


「なんだこれは……」


 驚愕の表情を浮かべる俺。


 ハムとレタスのサンドウィッチはちゃんとバターが塗られ、レタスの水分がパンにしみこまないように配慮されている。さらに切り方も絶妙で食べやすい。素材が吟味されており、それを一〇〇パーセント生かしてあるのだ。


 また精がつくようにと用意されたローストビーフ。火加減が最高だった。中まで綺麗に火が通っているのに生肉感も残っている。最良の火の通し方をしている証拠であった。

 

この料理のレベルは、今朝方食べた朝食に匹敵する。いや、それ以上だ。


「…………」


 ちらりとアリアローゼの姿を見る。


(……さすがにこれは屋敷の料理人に作らせたんだよな)


 そのような疑惑の視線を送っていたのだが、それに反論するのはメイドのマリー。


「ふふふ、先ほどは胃薬と整腸剤を用意しなさいなんて言ったけど、その料理を食べたあとでも同じ台詞が言える?」


「……まさか。でも、これ、料理人、もしくは君が作ったんだろう?」


「マリーは家事特化型メイド。料理は不得手なの。もちろん、お手伝いはしたけど、道具の用意をしたり、卵を割るくらいよ」


「……卵サンドに殻が入っていたのは君の仕業か」


「てへぺろ♪」


 舌を出すマリー。

可愛くないので話を続ける。

「本当にこのレベルの弁当を王女様が作ったのか」


「うん。アリアローゼ様は料理の天才だからね。最近はご自身でする時間も機会もないので控えているようだけど、王女はもともと、王都の下町で暮らしていたから」


「下町で?」


「うん。アリアローゼ様は妾の子。正妻に疎まれて、暗殺を逃れるために家臣の家で育てられたんだ」


「…………」


 沈黙してしまったのは俺と境遇が似ているからだ。


「そこで家事や料理を一通り覚えたんだって」


「なるほどな。道理で美味いわけだ」


 最後のサンドウィッチを、コンソメスープで飲み干すと、王女に礼を言った。


「姫様、こんなに美味しいサンドウィッチ食べたことがない。ありがとう。最高の昼食だった」


「うふふ、お粗末様でした」


 アリアローゼはそう言うと、試験までまだ時間があるので中庭を散策しないか、と提案してきた。

 悪くないのでその提案に従おうとするが、メイドのマリーがついてこない。


 なにごとかと尋ねると、彼女は小声で、

「馬に蹴られて死にたくないの」

 と言った。


 人の恋路を邪魔すると馬に蹴られることを指しているのだろうが、まったく、余計な気遣いである。


 面倒なのでそのまま置いていくと、アリアローゼと中庭にある噴水に向かった。

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