第22話 王都の目抜き通り
こうして落とし子から王女の騎士になってしまった俺。
正式な叙任式を得ていないから、「フォン」を名乗ることはできないが、姓は好きに名乗っても構わないので、今日からリヒト・アイスヒルクで通す。
自分でもとても気に入っているし、王都でエスタークの姓を名乗ったまま王女の護衛をするのは賢いことではないからだ。
父上は年の半分は王都に滞在しているし、落とし子とはいえエスターク家のものが王女の護衛をしていれば要らぬ誤解を生じさせることもあるはず。
ここはエスターク家の落とし子であることも隠すのが得策だった。
「まあ、俺のことなど誰も注目しないだろうから、気にしすぎかも知れないが」
とつぶやくと、メイドのマリーがツッコミを入れてくる。
「黒髪黒目の天才魔法剣士が言っても説得力がない」
とのことだった。
俺の実力や容貌は目立つのだという。
昔、妹にも言われたし、実際、城の夜会でも目立っていたのでぐうの音も出ないが、気をつけることにする。
さて、北の街から馬車で揺られること二日。心配した襲撃も受けずに王都に到着する。
ラトクルス王国の王都はとても大きかった。
まず街道が馬鹿に広い。エスタークの城下町の二倍はあろうか。しかもすべて石畳で、でこぼこひとつない。ちゃんと管理されている証拠であり、財政が豊かな証でもあった。
「さすがは千年王城」
王都の別名を口にすると、アリアローゼが尋ねてきた。
「リヒト様は王都にやってきたのは初めてですか?」
「いや、幼い頃に父上に連れられてやってきた」
「それでは二度目ですね」
「といっても子供の頃だったし、あまり覚えていない。それに一〇年も経てば大きく変わっているだろう」
「一〇年程度ではなにも変わりませんよ」
そう言われたので当時の記憶をたぐるが、たしかにそんなような気もする。
王都の立派な門を思い出す。
「たしか当時も偉そうな門番がいたな」
「たしかに偉そうですね」
くすりと笑う王女様。
メイドのマリーは「でも見ていなさい」と懐から通行手形を出すと、門番は深々と頭を下げた。マリーの持っている通行手形には王家の紋章が書かれているのだ。
さすがお姫様といったところか。
街の中に入るとエスタークでは見られないような立派な建物群に驚く。王立図書館に王立博物館、例の特効薬を開発した王立研究所もあった。他にも立派な商店などが建ち並んでいる。その中でも一際立派な建物をアリアローゼが指さす。
「あれは世界でも数カ所しかないデパートです」
「でぱーと?」
平仮名になってしまう。
「デパートメント・ストア、つまり百貨店ですね」
「なるほど」
よく分からん。
「色々なお店がひとつのお店に入っているんです。いつか、一緒に行ってみましょう。エレベーターと呼ばれる面白い装置があるんですよ」
「ほお」
「ちなみにマリーは初めてエレベーターに乗ったとき、『妖怪の入れ物よー』と取り乱したんですよ」
くすくすと笑う王女様。マリーは顔を真っ赤にしながら抗議する。
「あれは武者震いしただけです!」
とのことだったが、まあ、箱が上下する機械に乗ったら、俺も青ざめてしまうかも知れないな、と思った。
さて、王都の珍しい建物も堪能したことだし、このままアリアローゼの屋敷に向かおうと提案する。
「わたくしの屋敷ですか?」
「王族だからあるだろう? あ、宮廷で暮らしているからないのか」
となると俺も宮廷暮らしか。面倒そうだな、と眉をひそめると、王女は首を横に振った。
「父上――、国王陛下に屋敷を与えられていますが、そこには帰りません」
「ならば王立学院に直接帰るのか?」
「いえ、その前に寄るところが」
と言うと王女様は俺を王都の目抜き通りに連れてきた。
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