第21話 王都帰還
王女の騎士としての義務を果たすと、翌朝、聖女たちは目覚める。
マリーは「ふあーあ」と背伸びし、
アリアローゼは「…………」ぽけーっと宙を見ている。
王女様は低血圧のようで。
完璧な淑女にも弱点があるのが微笑ましかったが、マリーはそそくさとメイド服に着替えると王女の身だしなみを整える。
紳士である俺は勿論部屋を出ていくが、中でなにが行われているかは判る。
アリアローゼは寝ぼけ眼で両手を挙げると、マリーが着替えを手伝う。そしてブラシで髪をとかして、髪を結う。妹がいるので手順まで完璧に想像できたが、マリーの手際の良さまでは想像できなかった。
一二分と三秒で身支度を調えると、王女様はにこやかに部屋を出てくる。
うちの妹の倍の速度、世間の令嬢たちの一〇倍は速いのではないだろうか。それでいて完璧な身だしなみなのだから、マリーの優秀さが知れる。
そのことを褒め称えると。
「えっへん」
と大きな胸を突き出す。
「マリーは武芸も得意だけど、、メイド能力もSランクなのよ」
「いつか武芸に専念できるようにしてやりたいな」
そう返答すると彼女たちに予定を尋ねた。
「この街に留まるのか?」
「まさか、学校がありますから」
「メイド学校の講師でもしているのかな」
「マリーじゃなくてアリアローゼ様が通うのよ」
「ああ、なるほど、そういえばそんなことを言っていたな。王立学院に通っているんだったな」
「ええ、アリアローゼ様は王立学院の中等部生よ」
「中等部生?」
「物知りのリヒトも知らないことがあるのね」
「学校とは無縁の人生だったからな」
「王立学院は初等部、中等部、高等部に分かれているの」
「上に行くと偉いのか?」
「まさか。アリアローゼ様は王女よ」
「そうか、王女様ならば高等部ってわけでもないのな」
「初、中、高は純粋に学年分け。各学年、二~三年通って学業を修めたら上の学部に進めるの」
「分かりやすい」
「中等部ってことは卒業するまでまだ時間が掛かるってことだな」
「まあね。最低でもあと三年は通うことになるわね」
「飛び級はできないのか」
「アリアローゼ様は〝欠落者〟よ。無属性以外の魔法が使えないの。その無属性も使えるというだけで役に立たないし、実際は〝無能〟と一緒。それでも王族だから入学できたけど、さすがに飛び級までは」
「なるほど」
納得するが、マリーが「しまった」という顔をしていることに気が付く。本人の横で余計な話をしてしまったのだ。しかし、アリアローゼはよくできた人物で、怒ることもいじけることもなく、和やかに言った。
「気にされないでください。本当のことですから」
彼女はそう言うと、「さあ、そろそろ行きましょうか」と宣言する。場の空気を変える見事な処置だ。
「教区長様によれば南の橋はもう修復されたそうです。王都まで二日もあれば帰れましょう」
「それは助かる。移動するたびに盗賊を退治するのは面倒だ」
その出来の悪い冗談に王女様もメイドさんも笑ってくれる。
社交辞令だろうし、作り笑いでもあるが、陽気にしていれば幸せが訪れる、という格言もある。彼女たちはその効果をよく知っているのだろう。
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