第4話 真の魔力値 (魔術師視点)

 急遽練兵所にて決闘が行われることになった為、そこに運び込まれていた魔力測定装置を片づける作業が必要となっていた。エスターク家に雇われた魔術師が急いで機械を片づけていると、助手からこんな報告を受ける。


「親方、機械の様子が変なんですが」


「なんじゃと!?」


 それは一大事。


 魔力測定装置は古代魔法文明の遺産で、高額なアーティファクトだった。もしも壊れたら修理代に天文学的な金がいるのだ。その上、壊れたと魔術協会に知られれば大目玉を食らう。


「首になったらかなわん」


 そう思いながら測定器を調べる魔術師。点検用のパネルを開き、ログを解析する。

 映し出される古代魔法文字。

 ――特に異常は見受けられなかった。


「こりゃ、貴様、驚かせるでない。なにも異常はないではないか」


「あ、親方、異常は機械じゃないんです。なんか数値がおかしくて……」


「数値じゃと?」


 今度は数値、つまり先ほどの測定結果を解析する。

 そこに表示されたのは332という数字だった。


「この数値は最後に計ったマークス殿の魔力値じゃないか。なにが問題なんじゃ」


「いえ、それではありません。その前のやつです」


「その前だと? あの落とし子のものか?」


 魔術師はひとつ前の数字を解析すると、我が目を疑う。


「な、なんじゃと!? 魔力値1123だと!?」


「そうなんですよ。なんかおかしいですよね、これ。だって空中に投影された数値は11だったのに」


「むうう……しかし、装置はどこも壊れておらん」


 いくら解析しても機械に異常はない。


 つまり投影された数値を弄ったものがいるということだ。


「……まさか、あの衆人環視の中、数字を弄ったものがいるというのか……」


 本職である自分は機械を弄っていたからともかく、あの会場には他にも魔術師がいた。そんな中、誰にも違和感を悟らせないなど、不可能である。


「……いや、この魔力値を持つものならば可能か」


 魔力値1123はとんでもない数値だ。

 並の魔術師の五倍の魔力値を持っているのだ。


「……あのリヒトとかいう落とし子、もしやエスターク家の中でも最高の魔術師なのではなかろうか」


 あの場で魔力値を誤魔化せる魔力を持っているものはリヒトしかいない。そう結論を出さざるをえない。しかし解せないのは、なぜ、そのようなことをするか、だ。


 魔力が低ければ追放されてしまうというのに、なぜ、魔力を偽らなければいけないのか、魔術師にはそれが理解できなかった。


「……しかしまあ貴族様とはそんなものか」


 貴族の世界は権謀渦巻く魑魅魍魎の世界。出る杭は打たれるという言葉もあるとおり、強すぎる魔力を持っていても生きやすくはないのだろう。ましてやリヒトという少年は落とし子であり、伯爵家内での立場も微妙なはずだった。


「……哀れな少年じゃて」


 魔術師はそう思ったので、このことを依頼主であるエスターク家には報告しないことにした。リヒトの魔力値を報告すれば一波乱あるからだ。


「……まあ、わしは雇われ魔術師。機械を正常に動かすまでが仕事」


 魔術師はそう言い残すと、そのまま王都へと帰還することにした。


 午後からリヒトとマークスとの決闘が行われるが、それを見届けるつもりもない。弟子は勿体ないと言うが、魔術師に言わせれば、「勝敗が定まった」決闘ほど詰まらないものはないのだ。あのマークスという貴族の倅ではどうしようもならないだろう。


 それくらいリヒトの魔力値はずば抜けていた。

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