第12話
僕は冷たい石に変わってしまった恋人を見つめていた。
ここ15年で世界は大きく変化した。
僕達が起こした事件は大々的に報道された。
僕はいじめによって精神に異常をきたした男だと報道されて、洗脳が云々は一切省かれていたが、問題はそこではない。
ここ数年10代の犯罪率は大きく上がり、僕のようにいじめを受けていた人がいじめをした側を殺害する事件が増えていた。
すると、反比例するかのようにいじめの件数とそれによる自殺の件数は減っていった。
これで理香の念願は叶ったわけだ。
「あれ、もしかして秋くん?」
声の先に振り向くと、そこにはあの時生徒会の副会長だった先輩がいた。
「えっと、久しぶりだね、あの、秋くんは元気してた?」
明らかに動揺したような口調で少し笑ってしまったが、無理はないかもしれない。
目の前には猟奇殺人犯がいるんだから。
「ええ、まあ、おかげさまで。
先輩はどうですか?」
先輩は少し迷ったような様子を見せてから話始めた。
「実はさ、あの後俺の彼女が殺されたんだ。
中学の頃の仕返しとかなんかで、あいつ、
中学でいじめやってたみたいで。
それで今日はお墓参りに来てさ」
「それはお気の毒に」
そうか、こんなところにまで余波が来ていたのか。
「でもそれって彼女さんが悪いですよね。
彼女さんがいじめなんかしてなかったら
殺されてないですよ」
何故か自然と口からでた言葉だった。
先輩は何も言わずに立ち尽くしている。
少したってから先輩は泣き出した。流石に言い過ぎただろうか。
「それじゃあ失礼しますね。
先輩、お元気で」
僕は手元のタバコに火をつけた。
「秋くんタバコ吸ってるの?寿命縮むよ」
さっきまで泣いていた先輩が虚な目で少し微笑んでそう言ってきた。
「理香のいない世界に長居はしたくないです
から、それはあなたもわかるでしょう」
夢をみた、理香を崖から落としたあの時の夢を。
「秋君、早く落として」
理香はそう言って両手を広げて見せた。
「そんな、嫌だよ、理香を殺したくない」
理香はため息をついて近づいてきた。
僕は一瞬恐怖を感じたが、その表情は優しい表情だった。
「秋君、お願い、わたしの計画を完成させる
ためには私も死なないといけないの」
理香は僕を見つめてそう言った。
「それでも理香を殺すなんて」
そう言いかけた時、理香は僕にキスをした。
「私は秋君に殺されたかったのに」
そう言って理香は僕を強く押した。
するとその反動で理香も崖に押し出された。
その瞬間、まるで全てがスローモーションになったかのように感じた。
最期の理香の表情は笑っていた。
僕はその時、宙に浮かぶ理香が天使に見えた。
いつかこの恋は 三角 @sankaku102
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