第11話
僕と理香はあの裏山を登っていた。
「ほら、ついた」
そこは裏山の中にある切り立った崖だった。
「理香?なんでこんなとこに?」
「あの時、ただの傍観者だった人がまだ残ってる」
理香は崖のギリギリに立って言った。
「ほら、殺して」
もし叶うのならば、僕は理香と普通の恋愛がしたかった。
いつからか、僕らは歪んでいたんだ。
理香は僕を愛し過ぎていた。
僕も理香を愛し過ぎていた。
「これで事情聴取は終わる」
そう言う刑事さんの顔は歪んでいた。
僕はあの後出頭して、すぐに捕まった。
僕はここまで供述をねじ曲げたことがなかった。
「小学校のころ、いじめてきた奴や、ただ見ていただけの奴を皆殺しにしたかった。
いじめをした奴らが悪い」
きっとこれで理香の望みが叶うだろう。
次の日
僕はどうなるのか、法律についてはわからないが、どうせ死刑だろう。
「やあ、君が秋君だね」
入って来たのは綺麗な顔をした女性だった。
「理香さんは君の恋人だったんだろう?
高校の男子君が言っていたよ。
だから理香ちゃんの部屋を調べさせてもらったんだ、そしたらほら」
そういってデスクの上に書類を並べ始めた。
そういえば理香の部屋にはたくさんのファイルが並べてあった。
「なんですかこれ」
その書類には自律神経だとか、マインドコントロールだとかが書かれていた。
「君の彼女さんは凄いね、全てとても難しい論文達だよ。中には新聞の切り抜きなんかもあればビジネス書まである」
「何が言いたいんですか」
「これは全部、他人を掌握することに関する資料達だ。つまるところ、君はあの子に洗脳されていたんじゃないか、いや、今も洗脳されているんじゃないかと言うことだよ」
何を言っているんだ。
「じゃあどうして理香まで、殺す必要があるんですか」
「そこまでが彼女の計画だからなんじゃないかい?」
その女性は資料の一枚を見てそう言った。
僕が理香に洗脳されているはずがない。いや、理香がそんなことするはずがない。
僕は女性を睨んだ。
女性は資料に視線を落としたまま話始めた。
「君、彼女に夜遅くに呼び出されたりしただろう、それによって君の判断力はひどく低下したと思う。さらに、君は条件付きの約束をしたんじゃないか?
例えばそうだな、今だけは助けてとか、期限付きの契約だ」
僕は理香から言われた言葉を思い出していた。
「それと君に彼女以外の親しい友人はいたかい?彼女を失うと自分は一人になると思っていたんじゃないかな」
僕には理香以外に親しいと呼べる程の人間はいなかった。
「君は彼女の全てを知った気になっていたんじゃないかい?
君だけが彼女の特別だと思っていたんじゃないかい?」
由奈の他の人が知らない一面をたくさん知っていた。
指のフォルダーも理香の思想も僕だけが知っていた。
「そうだな、後は私の推測だが、いままで優しかった彼女の怒りに触れて、それが決め手になったんじゃないかな」
あの日の理香の瞳を思い出す。
「なんなんですか、洗脳なんてされていないって言っているじゃないですか」
初めてだった。初めて事情聴取で手汗をかいていた。それはきっとこの女性の全てを見通すような視線のせいだろう。
「そうかい、まあ、何か心あたりがあるなら何か教えてほしい」
心にドロドロとしたものが溜まっていく。
「かわいそうに、恋人だと思っている人に操られるなんて」
「だから洗脳なんてされていないって言っているだろ!
僕は理香を愛していたし、理香も僕を愛していたんだ!」
部屋に静寂が走った。
「すまなかったね、それじゃあ失礼するよ」
僕は特例中の特例で15年程度牢に入ることになった。
僕は精神鑑定の結果精神的な欠陥が多数見られる、と言われた。警察の人はそれを洗脳と呼んでいた。
いくら僕が洗脳をされていようが、
僕には理香との思い出がある、花火をして、海に行って、毎晩のブランコでの語らいがある。
僕は理香を愛している。
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