第41話 あなたのランクは?
「四人組? じゃあ違うか……」
「あ、でもその中の一人は女性でしたよ。フードを目深にかぶっていたので顔まではわかりませんでしたが、たしかに女性の声でした」
「……そいつらがその後どこへ行ったかわかるか?」
「迷宮へ入って行ったのでおそらく今頃はダンジョン探索をしているのではないかと」
「……わかった、ありがとう。じゃ、俺の番だったな。手をかざせばいいんだろう?」
「あ、ちょっと待ってくださいね」
受付嬢は中心部部が黒く塗りつぶされたエーテルカウンターを手で擦る。すると黒いしみは一瞬のうちに消え去る。
「さあどうぞ!」
グレンがカウンター上のエーテルカウンターに手をかざす。ルィンの時と同様、中央の円の内部がじわじわと黒に塗りつぶされていく。黒の進行は1つ目の円を超えても止まらず、そのまま2つ目の円までをも塗りつぶした。そして2つ目を少しはみ出したところでその進行は止まった。塗りつぶされた範囲が、ルィンより少しだけ多い。
「おおお! まさかあなたもEランクスタートとは!」
「なんだよ、もうちょい行けると思ったのに」
「なんだー? グレン、まさかこの俺より上だと思ったのか? この大魔法使いより?」
「いや、おめえは魔物が出てもビビって逃げだす口だろ? たぶん俺のほうが戦ってるんじゃないか?」
からかってきたルィンへ逆に堂々と言い返してるグレン。
「なっ……。別にいつも逃げてるわけじゃないぞ! 俺だって逃げ道がなければ戦うから!」
「ああ、わかったわかった。とりあえず俺たち二人はこの程度だったってことだな」
グレンの言葉に受付のお姉さんがカウンター(とカウンターの上のエーテルカウンター)をバン! と叩き、
「とんでもない! 普通、多くの新米冒険者は最も下のGランクからスタートするものなんです! たまに素質のある人はFから始まることもありますが、Eスタートなんてめったにいませんよ? まさかお二人ともがEランクとは……実に驚きました! もしや、お二人はかなりの戦闘経験者では?」
「そういや最近はなんだかんだでちょこちょこ戦ってたな。……ところでさっき言ってた怪しい四人組は何ランクだったんだ?」
さりげなくグレンが探りを入れる。
「ああ、その人たちなら一人がFで残りの三名はGスタートでしたね」
てことはルィンたちよりも下か。
じゃあカミラじゃないのか?
あいつならもうちょいランク上からスタートしそうだしな。なんせガーゴイルとか倒してたし。
「……そうか。わかった。じゃ、次はラグノだぜ」
お姉さんがエーテルカウンターを手でふき取って中央のシミを消し、
「さあ最後は銀髪のお兄さんですね! どうぞこのカウンターの上の――」
「ああー! わかってます!」
お姉さんの言葉を遮って、そそくさとエテカウに両手をかざす。
「そうそう、そうやって手をかざしたままキープです! 上手ですよ!」
「は、はい……」
両手をかざしたまま身動き取れない状態で目の前のお姉さんにまじまじと見つめられる。なんかハズいな、これ。
手をかざした瞬間、中央の円が一瞬で黒く塗り潰れた。
「おおー! いい勢いですねぇ。さてはお兄さんも相当な手練れですな? ふっふっふ。私にはわかりますよー。いままでに何人も見てきてますからねぇ」
「は、はあ……」
黒いしみは勢いを落とさず、一気に2つ目の円も塗り潰した。
「お、ラグノも俺たちと同じとこまで来たぜ。やるじゃねえか」
「まあこの前のゴブリンとの戦いからしたら当然だよな。俺たちより行くんじゃないか?」
グレンとルィンが俺の両サイドからエテカウを見下ろし勝手に盛り上がっている。
そうこうしてるうちに3つ目の円があっという間に塗り潰れた。
「す、すごい……。まさかDスタートなんて……。私も長い間ここで受付をしてますが、このクラススタートにはめったにお目にかかれないんですよ! いやぁこれはいいもの見させていただきました。感激です……!」
お姉さんが言い終わる頃には4つ目の円もあっさりと塗り潰れた。
「はあああっ!? うっそでしょ!? どうなってんの!?」
カウンターの奥から、えらい形相のお姉さんが、がばりとエテカウに身を乗り出して覆いかぶさる。ガンガンに見開いた眼で食い入るようにカウンターを見つめている。み、見づらい……。俺はお姉さんの頭を避けるように斜めからエテカウを覗き込んだ。
4つ目を突破しても、さらに進行を拡大する黒。
ぶわぁーっとしみが広がっていき、ついに5つ目の巨大な円までが塗り潰れた。
「え? ええー? あ! え? あー? ああ! え?」
5個目を突破したってことはBランクか?
黒く塗りつぶされていくカウンターを食い入るように見つめながら、お姉さんはよくわからない挙動をし出した。
カウンターはさらに黒く染まり続け、6個目の円を完全い塗りつぶし、7個目の円の途中までを黒くすると動きを止めた。
「あ、止まっちゃった。六個目を超えたからAってことか」
お姉さんは呆然とエテカウを見つめたまま何も言わない。
両サイドのこいつらも同様だった。
「あれ? 初心者の方? え、違いますよね?」
「いえ、初めてです」
「あれー?」
人差し指でこめかみをトントンしながらカウンター向こうのお姉さんが頭をひねって考え込む。
「えっとぉ……。あ、生まれた瞬間から魔物と戦い続けてきたとかそういうタイプだったりします?」
「いえ、魔物と戦った経験はほとんどないけど……」
そう。ここ数日間で何度か戦った程度だ。
「えーと……そうですねえ。ということは……えーと? あれ、どういうことなんだ? えーとつまり初心者だけどいきなりAランク? いやいや。あり得ないから。え、でもたしかに6つ目を突破してる……。そんなバカな。なんで……」
カウンター向こうで唸りながら悩み続けた末、お姉さんがぽんと手を打つ。
「そうか! そういうことね! すみません、どうもこのカウンター故障したみたいです! お手数ですが隣で測りなおしてもらえますか?」
「はあ……」
俺は言われた通りすぐ隣のエテカウで再び測定を始める。そしてやっぱり6つ目の円を超えたところで黒いシミは止まった。
「うっそだろおい!? なんでや!?」
食い入るようにエテカウを覗き込む受付嬢。
かなり口調が変わってるな……。あと表情が強い。
強い表情でエテカウを手で拭う受付嬢。黒いシミがあっという間に消えていく。そしてきれいになったエテカウへお姉さんがすっと手をかざす。
2つ目の円をわずかに突破するまで塗り潰れる。
「ええ……。壊れ、てない……みたいですね。私もEランクの冒険者なので」
カウンターの故障ではないことが確認できたものの、いまだ解せないという顔を崩さないお姉さん。
「えー……嘘……なんで……。ノーマルクラスのモンスターなら数万匹は倒さないとこのランクにはなれないのに……。そんなの、達人クラスが数十年かけてやっと到達できるレベルですよ。……その若さでそれは、どう考えても無理がありますね。だとすると後は伝説級のモンスターを複数体倒すくらいしか到達する手段はありません」
「伝説級って例えばどんなモンスターですか?」
伝説級なんてワクワクするワードが出たので俺はお姉さんに聞いてみた。
「伝説級って言うのは、フェンリルとかイシャルダとかレクゾーツとかオーガとかクジャとかそのレベルです。いや、それこそ、なおのこと無理でしょ。伝説級を倒せる冒険者なんてこの世に数えるほどしかいないってのに。こんなひょろっとした少年にそんなことできるわけが……」
一つだけ知ってる名前が出たな。
ラグノーツ 清澄武 @kiyosumitakeru
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