第40話 ギルド
やっぱりあのあたりは今危険らしいな。
しかしそんなシレジーの言葉にも、グレンはがんとして引かない。
「いいや、行くね」
「危険です!」
「行く」
「無茶ですよ!」
「行く」
「襲われたりするかもしれませんよ!?」
「構わねえよ」
「……う~~~~~。そう言われましてもねえ……」
これ見よがしに困った顔を浮かべたシレジーが、両手で頭を抱え込む。
「別に俺たちが好きで行くんだからいいだろう?」
「本当にいいんですか!? 死んでも知りませんよ! 後から損害賠償とか請求しないでくださいね!」
ピンク髪のお姉さんは無駄にでかい声でまくし立てながら、立てた人差し指を勢いよくグレンの顔に近づけて釘をさす。
「あー、わかったから早く送ってくれ」
「え!? なにかあっても損害賠償請求しないんですか!?」
「そんなめんどくせえことしねえよ」
「もう~最初に行ってくださいよ! そうすればすぐにお送りしましたのに! さーて、それでは皆様、こちらへどうぞ~」
なにかあっても金を請求しないことに快諾したグレンに気を良くしたのか、途端に機嫌よさげになったシレジーが俺たちを部屋の奥へと案内する。通された先には無駄にでかい部屋。部屋の床一面にはこれまた無駄にでかい魔法陣が描かれていた。普通の家ならすっぽりと入りそうなほどのサイズ感。
巨大魔法陣の中心には五芒星が描かれていて、その周囲にはよくわからない謎の文字(古代文字かなにか?)がびっしりと敷き詰められていた。
「さあ皆さん魔法陣の"ど真ん中"へ移動しください。必ず中心! "ど真ん中"でお願いしまーす!」
お姉さんはやたらと、ど真ん中押ししてくるので、そこはおとなしく従う。
俺たち三人が大魔法陣のど真ん中に立つと。
「えー……。では今から皆さんを転送するわけですが、一つだけ絶対に守ってもらいたい注意点がございます」
さっきまでと打って変わって、妙に深刻そうな顔でひどくまじめな口調で話し出すシレジー。
そんなに大事なことなのか?
「転移が完了するまでは絶対に魔法陣から出ないこと。このルールを絶対に守ってくださいね。約束だよ?」
立てた人差し指を口に当て、上目遣いにちょっとだけイラっとする顔を俺たちへ向けてくる。
「もしも約束破ったら……。バラバラになっても知らないんだからっ!」
そう言うと今度は笑顔でウインクを飛ばしてくる。
なんなんだこの人。ふざけているのかまじめなのかはっきりしてくれ。たぶんふざけてるんだろうけど。
俺たち三人は醒めた目でシレジーを見つめる。速く飛ばせよ、と内心思いつつ。
「さて、と。では皆様を竜骨迷宮へ転移させます。ああーっと、気をつけてくださいね! 転移の途中で魔法陣の外に出るとほんとに体がバラバラになりますので! 死んでも責任取れませんので! ……こほん。それでは皆様良い旅を!」
シレジーはいつの間にか手に持っていた巨大な杖で魔法陣の端っこを軽くトンと叩く。硬質な音が部屋に響いた。
ほどなくして魔法陣全体から光が立ち昇る。手を振りながらにっこりと笑顔を浮かべるシレジーの姿が光の向こう側へ徐々に消えていく。
そのわずか数秒後には、俺は見知らぬ場所に立っていた。室内ではない。街中でもない。そこは平原のど真ん中だった。いや、平原と言うには大地が荒れるいる。荒地と言ったほうが正しいな。どうやら転移魔法は成功したっぽい……が。目の前にあるのはどこまでも続く枯れた大地だけ。ところどころひび割れていかにも不毛な土地って感じがする。竜骨迷宮に飛ばしてくれるんじゃなかったのか?
「一瞬だったな」
俺の横でルィンが言った。
「でもここどこだ?」
地平線の彼方を見つめながら俺はぽつりとつぶやく。
なんなんだこの不気味な大地は。
もしも転送に失敗しておかしな場所に送られたんだとしたら……マズイぞ。
こんな場所じゃ水や食料が手に入るかすらもわからない……。
「ラグノ。ほら」
ルィンが俺の肩をポンポンと叩くと、親指で後ろを指す。
そちらへ身をひるがえすと、視界いっぱいに飛び込んでくる巨大な建造物。いや、建造物と言うよりも……。なんだろう、うっすらと黄色がかった白くて巨大な何かがそこにある。建物のようにも見えるけど……ただのでかい岩のようにも見える。形容しがたいそれを見ているとルィンが、
「まずはギルド登録へ行こうぜ」
「ギルド? どういうことだよ。迷宮に行くんじゃないのか?」
「迷宮へ入るにはギルドへの登録が必要なんだよ。この迷宮の管理者はギルドだからさ」
「なんかよくわかんねえけど……。で、その登録とやらはどこでするんだ?」
「ほらあそこ」
ルィンが指さす先。そこにあったのは白い岩の隣にぽつんと立つ丸太小屋。
「……あれがギルド?」
「まあギルドの受け付けだな。ほら行くぞ」
「ああっ、待てよ」
◇
丸太小屋に入ると、中は案外広かった。
入って正面には横長の木製カウンターがあり、何人かの事務員らしき人が立っている。
俺たちはそのうちの一人の受付員の元へ。
「いらっしゃいませ! 冒険者の方ですか?」
「新規登録したいんです」
「ありがとうございます! 三名ですか?」
「ええ」
「わかりましたー。では皆様の冒険者ランクを測定するのでこちらの測定器に一人ずつ順に手をかざしてください」
受付のお姉さんがカウンターの上を指し示す。
木製カウンターの上には、いくつもの円が描かれていた。
中央に小さな円。その周りに一回り大きな円……と言う感じで合計8個の円が描かれている。
「皆さんは魔物と戦った経験はございますか?」
「多少は」
ルィンが答えると、
「なるほど! ではエーテルについてはご存じでしょうか?」
「エーテル……?」
「はい! では説明させていただきます!」
ルィンが言い淀むと、すかさず説明に入る受付のお姉さん。
「この世界ではモンスターを倒すと、エーテルが発生します」
「モンスターとは何度か戦ったが、そんなもん見たことねえぜ」
グレンの言う通り、俺もそんなものは一度も見たことがない。
「ふふ、まあまあ、話はここからです! エーテルは目には見えない要素なんですよ。だから見たことがないのは当然のことなんです。しかしエーテルは一度獲得するとその情報が魂に刻み込まれ、永遠に消えることはありません。つまり魔物を倒せば倒すほどあなたの魂にエーテルが貯まっていく、というわけです。そして貯まったエーテルを測るのが、このエーテルカウンターです。カウンターの上にカウンターが!」
「えっ」
言葉を失ったルィンが、虚無の瞳で受付嬢を見つめる。
俺とグレンはなんとなく二人から視線をそらした。
「……こほん。さあ、皆様のエーテルレベルを測りましょう。まずは赤い髪のあなたから!」
「はあ」
受付嬢がまずはルィンをうながす。
いまいち要領がわかっていなさそうなまま、ルィンがカウンターの上に描かれたエーテルカウンターに手をかざす。
すると、中心の小さな円の中がずずず……と黒に塗りつぶされ、さらにその一つ外の円も完全に黒く変色する。そして2つ目の円から少しはみ出た部分までが黒く変色した。
「おおおおお! 三つ目の円が少しだけ黒くなりましたね。ということは赤髪のあなたはEランクです!」
「Eラング、ですか。ちなみにそれはどういう?」
「あ、説明が前後してしまいました。エーテルランクはS~Gまでの8段階。S、A、B……F、Gという感じですね。これがそのまま冒険者ランクになります。ランクが上がるほど侵入可能エリアが増えてより上級の魔物との戦闘が可能になります! つまりエーテルがより増えやすくなりますよ!」
「は、はあ」
「さあ、次は青い髪のイケメンのお兄さん!」
「ん? 俺か」
「さあさあ、手をかざしてください!」
「ああ」
うながされたグレンがカウンターの上のエーテルカウンターに手を伸ばそうとし、途中でピタリと手を止めた。
「……ところで最近ここへ金髪で白いドレスを来た女が来なかったか? 年は俺たちと同じくらいだ」
「金髪で白いドレス……? 白いドレス……。さあ、私は見てませんねえ」
受付嬢は上目がちに考え込むが、どうやら心当たり無さそうだ。
てことはカミラはここには来ていないのか?
それだと俺たちがここに来た意味がなくなってしまう。
「……あ! でも全身をフードで隠した少し怪しい四人組ならやってきましたが」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます