第16話 犬は保健所
ノブはエンジンの直接的な破壊を諦めその制御装置を破壊することで間接的にエンジンを破壊しようと制御装置があるであろう操縦席を探していた。
恐らく上部に存在しているであろうと彼は考え上に登っていく。しかし、そのイメージは凡そアニメから来ているものであり、ガラス窓から外を見ることなど戦艦ではありえない。強度的に劣る透明なガラスや透明アルミニウムでも、更に強度の高い透明な金属であろうと所詮は1枚の金属であり、それよりも外殻を厚く何層にも重ね外の景色はモニターで見る方が安全というものであろう。この戦艦も操縦室は中央付近にあり、さらにその操縦室は別の船になっていて戦艦が破壊されてもその船単体で脱出でき宇宙を航行できる構造になっていたのだった。
ノブはお門違いの最上部まで来たがそこは小型攻撃機の格納庫になっていて間違っていたことに気が付いた彼は怒りをぶつけるかのように小型攻撃機を破壊して回った。これも、外殻は強固であり破壊するには相当の魔力を要する魔法でなければ破壊できず内部に転移して破壊することに徹していた。
破壊に集中し他が見えなくなっているとノブはいつの間にかリザードマンに囲まれていたのだった。
「あれ? 囲まれてた?」
そのような状況に陥ってもノブに余裕の表情は崩れなかったのは彼には対処する手段があるお陰だ。
リザードマンはそれぞれに銃を持ち一斉に攻撃する。銃は弾など使わない光線銃であり、その速度は光と同等で撃った瞬間敵に届く。それ故狙いは簡単であり、スコープにはウインデージダイヤルもエレベーションダイヤルついていない。熱等で光が屈折していた場合、つまり銃が狙っている位置に敵がいなくても光線銃の光線も光であり屈折して敵に当たることになる。最強に精度の良い銃であった。
その銃が一斉にノブを狙った。
しかし引き金を引く瞬間ノブは消えていた。未だ光線が発射される前に消えるのだから当たりようがない。
その時ノブは敵の後ろに立っていたのだった。
ノブは指を開いた掌を敵に向け魔法を打ち出す。
「ヒートウェーブ」
超高温の熱波が敵を襲いその衣服や皮膚に火を点け燃え出した。直ぐに敵は絶命した。
格納庫の敵を殲滅したノブは魔力を少しでも回復するよう敵との開戦を避けるように身を隠しながら階下へ降りていく。
「あれ、開かないぞ? 鍵がかかってるな、怪しい」
どれくらい降りたのか分からないがノブは鍵がかかっている区画に出くわす。
中は全く見えず転移に不安がある。そんな時ノブは空間をつなげる魔法を使っていた。
名付けて『どこへでも扉』。
少々壁の色が違う廊下に出た。
すると突然誰も居ない空間から攻撃を受ける。ノブに張られたシールドがその攻撃を反射する。
「やばい。どこ?」
どこからの攻撃か分からず辺りをきょろきょろ見回すノブ。
ま、まさか?
『どこへでも扉』の応用『どこへでも攻撃』? ノブが出来るのだ、他に出来る者がいないとも限らない。宇宙空間に溢れた魔力というエネルギーを利用している可能性は高かった。
「くっ!」
このままでは不味いとノブは走り出す。
この区画は狭かったようで廊下は短く直ぐに袋小路に突き当る。そこには扉があった。扉の先には敵がいるんだろうなと覚悟して扉を開ける。
するとそこには十数人のリザードマンがいた。騒然とする室内。ノブに殺意を向け銃を取り出す。
その室内はどう見ても指令室。沢山のモニターに表示された様々な場所の映像。月の映像もある。ノブはそこがこの船の操縦室であり、指令室だと理解した。
「ここを壊せばこの戦艦爆発するかな? よし、壊す、『カリオガミー』!」
両掌を前方に差し出し叫ぶ。
掌から飛び出す青白く輝く光の塊。核融合する物質の醸し出す光だった。
ゆっくりと移動するそれは人を巻き込みながら周囲の機械を溶かし重力で周囲のものを引き寄せ溶かしてゆく。
逃げ惑う人々。
緩徐にその塊は巨大化していく。
既に敵からノブを殺す意図は消え部屋から逃げ出していくことで精一杯になる。
「あれ? エンジンにもこの魔法を使えば良かったんじゃ?」
いや、あの時はこの魔法が使えるほど魔力は練れていなかったのだと諦める。
魔法を使用していく内にその練度が上がり使えるようになったようだった。
直ぐに、ノブはジョンの待つ船に転移した。
「遅い、何やってたんだ、この愚図が」
「この艦は恐らく爆発する、少し転移するぞ」
と月付近まで転移する。この船のワープ装置を使えば転移出来るのだが如何せんほんの少し時間が余計にかかってしまう。それでは爆発に巻き込まれてしまう可能性があるのだ。
転移後しばらくして強烈な光が戦艦の居た方角から迸る。
「爆発したな、よし次行くぞ」
「未だ、仕事終わってないのかよ、愚図だな」
「ちっ、転移する」
そう告げると爆発した戦艦のいた付近に転移する。犬だけ保健所に転移して引き取ってもらおうかなと考えたのは言うまでもない。
転移すると他の指令艦がいる方角を見つける。
レーダーが捕捉したのだ。
「ジョン、そこへ向かへ」
「命令するな、操縦させるぞ。お願いしろ」
「お願い」
少しは犬本来の素直さを持っていて欲しかったの思うノブであった。
転移するとノブは今度は戦艦の中へ転移はしない。魔法の熟練度が上がり新たな魔法が使えるようになったからだった。
「ここから直接攻撃するのか?」
「そうだ、まぁ見ていろ」
「それ、この船には影響ないのか?」
そう言えば船の中から攻撃すればこの船に影響がない訳がなかったのだ。ジョンに指摘されるまで気が付かなかったノブであった。
「ちょっと行ってくる」
そういって、球状にシールド展開、中に空気を溜め船外へ転移。
「アナイアレーション!」
小さな石の様な塊を打ち出す。
小さな掌で収まるサイズの石は音速の何倍もの速度で飛びついには長さ数十キロもある戦艦の中央付近にぶつかる。
一瞬の静寂の後着弾部分が爆発し、その爆発は連鎖し戦艦全体に広がって行った。
その石はただの石ではなかった、反物質の塊だったのだ。物質にぶつかれば対消滅を起こす。その醸し出すエネルギーは凄まじいものだった。
攻撃に気が付いてほかの戦艦から攻撃機がやって来る。
「ジョン逃げるぞ。直ぐにワープしろ」
「煩い! 使えない奴だな」
魔力は使い果たしていた。暫く転移は出来ない。
船は転移して火星付近に出た。
直後、敵戦闘機もワープアウトして来る
「このまま逃げ続けろ。この方角ならこの先に土星があるはずだ。タイタンのやつらの基地を叩く」
「ほう、良く思いついたな、馬鹿なのに」
「一言多いんだよ」
この辛辣な性格はどうにかならないな、やはり保健所? かと本気で検討するノブであった。
「追い付かれるぞ」
「この船ガソリン大丈夫か?」
「はぁ? やっぱバカだったな。ガソリンなんて使ってる訳ないだろ」
「いや、エネルギーという意味だ」
「半永久的に使えるエネルギーだよ、地球の原子力発電の何倍もクリーンで効率的で発電量も大きいし装置も小さい。元地球人はそんなことも知らないのか?」
もう、ここで殺そうかなと考え始めたノブだった。
「アステロイドベルトへ行け、防衛システムはまだ残っているはずだ」
「遠いぞ、この先の地球と火星の間の第二十四防衛ラインは破壊されたままだ。第二十三防衛ラインが近いがそれでも距離がある」
「ワープすればすぐだろ」
「あのなぁ、馬鹿もココに極まれりだな。あんなに隕石の多い場所にワープアウトしたら死ぬぞ」
「じゃあ、このまま行け」
「あほか! 追い付かれるから言ってんだろ」
「がんばれ」
「頑張ってどうにかなるものとならないものがあるだろ」
「なんとかしろ」
「無理。じゃあ、アステロイドベルトの先の木星軌道付近にワープアウトするぞ」
「仕方がないなぁ、ジョンでもできないことがあるのか、そうかそうか」
一矢報いることが出来たとご満悦のノブであった。
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