第8話 蓼食う虫も好き好き
昨日のイントルーダーの襲撃で当座の外出が制限されました。ドームの天井付近に出来た罅が修復できるまでの数日とのことですが、建物の外に出なくても一向にかまいません。全て中で賄えるのですから。食料の補給は外が真空状態になっても車で大丈夫ですので、人が建物の外に出なければ問題ないのです。
今日は入学式です。新入学生の両親も来るのですが半数の家庭が母親だけになってしまいました。つまり、その半数は戦闘員であり、イントルーダーの再度の襲撃に備えているからなのです。
校長先生の長い話も終わり教室に来ました。クラスのメンバーは同じ居住区の新入学生に限られているので見知った顔が沢山あります。
「はーい、ノブ」
げっ!
「なんかいや無そうな顔しなかった?」
「ソ、ソンナコトナイヨ?」
「どうして片言? どうして疑問形なの? そんなに私が嫌?」
「ハハハハ」
嫌に決まってるだろ!
ですが、ホントのことを子供に言えるような強い心は持ってません。
「ねぇ、終わったら三十階のレストランでお話ししましょうよ」
え~! そんな拷問より僕には訓練が必要なのです。
「あっ、そうだ、昨日一緒に居たココってやつがネネのこと好きだってよ、一緒に行けば?」
「ほ、本当? うん、誘ってみる」
なんというませたガキでしょう。
その時でした、地震が発生したのです。
震度で言えば四程度でしょうか。何かが起こったのでしょう。そもそも月で地震など起きないのですから。だって月は人工衛星なのですから。
『皆さん落ち着いてください、現在状況を確認中です』
数分後揺れも収まりました。クラスのみなも落ち着きを取り戻したようです。
その時、先生と思われる大人の女性が駆けこんできました。
「皆さん、現在詳しい状況を確認中ですが、イントルーダーの攻撃を受け北の第三居住区が被害を受けたとのことです。このクラスにはいませんが第三居住区の生徒さんはそのまま待機してもらってますが皆さんは各自部屋に戻ってください。追って連絡します」
居住区が攻撃を受けたのなんて聞いたことがありません。それに先程の揺れ。かなりの被害を受けた可能性があります。第三居住区は全滅の可能性もある訳です。
今まで有り得なかった居住区への攻撃は、その攻撃が迎撃システムをすり抜けたことを意味しています。今までの防御が通用しなくなったのかもしれません。そうなれば月基地自体が破壊される可能性も出てくる訳です。
そうであればこの月には住めなくなります。そうなれば母星への帰還ということになるでしょう。そうなってしまえば地球への転移など夢のまた夢、紗菜を助けることなどできなくなってしまいます。しかし、僕が前世の力を取り戻せばイントルーダーをも葬ることができるかもしれません。転移を使えば神出鬼没にゲリラ戦法で敵を殲滅していけますから。
先生の言いつけに従い教室を後にします。
僕達には力もなくただ自分に割り当てられた部屋に戻って事態を静観するほかありませんでした。
夕方、そろそろ夕食の時間ですが、何の連絡もなありません。今日は待機命令が出たので勝手に夕食を食べに行っても良いものか迷います。
コンコン
ノックが聞こえました。
「はい」
まさか‥‥不安が募ります。
まさか、ネネじゃないだろうな? もう本当に苦手なんデス。
「俺だよ」
ココでした、いつになく落ち込んだ表情です。
「どうした? なにかあったか?」
「俺んち、第三居住区なんだ。両親が死んだ。うちの親第三居住区のメカニカルメンテナンスをやってたんだけど、イントルーダーの攻撃で居住区は消滅したらしいんだ」
「えっ、消滅?」
消滅するなんて核爆弾でも使用したのでしょうか。
その時ホログラムのモニターが壁際に映し出され第三居住区の映像が流れ魔始めたのです。
その光景はすさまじく居住区は跡形もなく、隠蔽用の月の表面の岩石が消滅しその内部の金属が露出していたのです。月の表面の岩石の厚さは約十キロ、その大量の岩石が消滅していたのです。
『これが本日イントルーダーによって破壊された後の第三居住区です。跡形もありません、地表下部の金属が露出してます。もう地球人に隠し通せないかもしれません。担当者は早急に隠蔽の為の準備をしているのですが間に合うかどうかは微妙なところです』
今現在、月の周りを周回する地球のデバイスはありませんのでその点は安心ですが、この被害の大きさなら地球から観測できるかもしれません。そこをホログラムで隠蔽するのですが、間に合わなければ地球は大騒ぎです。そもそも、あの地震は地球で観測できたはずですから、確実に中国は衛星を飛ばすでしょう。
問題は、イントルーダーの攻撃がこれで止むことはないということです。効果のあった攻撃を再度実行することは目に見えてます。そうなれば月本体の金属面が露出することになってしまいます。
もう、その頃にはイントルーダーの攻撃は地球をも蝕み月が人工衛星だったとか言った見出しが新聞を飾ることはないかもしれませんが。
「その攻撃でうちの両親は死んだみたいだ」
居住区消滅という発言から予想はしましたが実際聞くと精神を打ち付けます。
何と言って良いか分かりません。
いつもは男らしいガキ大将タイプのココが俯き泣き出しました。僕から見れば子供が鳴いてるようにしか見えないのでただ横に座り肩を抱いて言葉を発することもせず慰めました。
すると勝手にドアを開けてネネが入って来ました。ネネもココの状況を理解しているはずです。慰めてくれるでしょう。
「あんたら、ホモ?」
やっぱりこいつ大嫌いです。
▼△▼△▼
「なんだ、そう言う事か」
ココが落ち込んでいるというのになぜ君の表情は明るいんだ!!
「ネネ、ココを慰めてあげてくれないか?」
ネネにはココがネネのことを好きだという事実を教室で教えてます。
終わったらレストランに誘うとも言ってましたし流石に空気を読まないネネでもココを無碍には扱わないはずです。
「どうして私? 泣くような男嫌いよ。男なら泣くな!」
微妙です。空気を読んでないのでしょうか、慰めてるのでしょうか。
でも効果があったみたいです。ココの表情に一縷の希望が浮かんでいるようです。
流石に好きな女子のツンデレは効果があるのでしょう。
まぁ、蓼食う虫も好き好きということで。
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