第6話 襲撃
未だだ、未だ。もっと行ける、僕の限界はこんなところではない。死ぬ寸前までいった。様な気がする。それ程頑張ったのに転移魔法はおろかもっと下位の魔法さえ使えなかったのです。
毎日毎日三十三階のトレーニングルーム、そこで知り合ったココと一緒にはしりました。死ぬほど走りました。それでもココは付いて来て追い抜き僕を置き去りにするほど速かったのです。ココは体が僕より大きいので不思議ではないのですがそのココに必死で付いて行く程頑張ったのに僕は未だ僕の中の内包可能魔素容量を必要なだけ増やせていませんでした。魔素という原料が無ければ魔力という材料を作れない、材料が無ければ魔法を生み出せないのです。
明日から授業が始まります。訓練の時間は減るので何とかしなければなりません。学校に行かないという手もありますがそれは駄目でしょう。紗菜の命が掛かっているとはいえ僕には僕の人生がありそれを犠牲にしてまで人を救うのは違うのではないでしょうか。僕はヒーローではないのですから。所詮僕達は既に別々の道を歩いているのです。
「あれ? お前の部屋ってこの階だったのか?」
ココでした。
「そうだよ。ココは? ココもこの階?」
「あぁ、気が合うな、どうして今まで合わなかったんだろうな」
「なぁ、偶には部屋に遊びに来いよ。何もないけど」
「おう、遊びに行くよ。なぁ、今から走りに行かないか?」
「ああ、いいぞ。行く。着替えを取りに一度帰るよ」
二人して着替えを取りに帰るとココは隣の部屋の住人でした。
「気が合うな?」
「なぁ」
先日彼が体が大きくなる方法を教えるとか言ってたのですが、聞けば『いっぱい食べることだ』とふざけたことを言いました。
余りのふざけた発言に怒りを通り越して二人で笑い合ったのです。ガキ大将っぽいけどいいやつでした。それ以来友人となったのです。
「なぁ、俺たち同じクラスならいいな?」
走りながらココが訊いてくるのですが彼は余裕の表情です、僕は付いて行くのがやっとなのに。体の大きさが一歩の長さの違いを生み、それが体力の消耗の違いを生んでいるのかもしれません。
「ああ、大丈夫だ。プライマリースクールは居住区毎に分かれているらしいぞ」
「だったらクラスは別じゃないか」
「授業中に話すことなんか無いだろ? お前は俺の彼女か」
「授業中も遊びたいだろ?」
「遊ぶな! 真面目に受けろ、後で後悔するぞ」
子供を諭すのも大変です。
その時でした。
突然警報が響き始めたのです。
小さい頃から月に住む住人はこの音の意味を教えられます。イントルーダーが攻めてきた音です。敵のことをイントルーダーと呼んでいます。そのイントルーダーがこの銀河に住む別の星系の住人だと知ったのは最近です。
「おっ、こりゃ授業は延期か?」
嬉しそうなココですが、彼の表情からも分かる通り、敵が攻めてきたと言っても依然偵察の段階を過ぎることはなくどこか安心しているのです。それに迎撃システムも完備してますので。
まるで戦時中にもかかわらず停戦協定で安心している韓国と言ったところでしょうか。
しかし、今日は違ったのです。
上空のドームに攻撃が加えられ罅が入りました。これは不味いです、このまま避ければ真空状態の月の環境が僕達を容赦なく襲います。僕達の体は沸騰し膨らむことでしょう。外にいれば‥‥
そうです。
建物の中にいる限り安全です。建物は全て真空環境でも生存できる宇宙船のような構造になっているのです。それもそのはず月の建造物ですのでそれ位の対策は講じられているようです。
ただ、このまま行けば外出はできなくなります。
だからこそ同じ建物内に居住区と学校や飲食店街があるのでしょうけど。
ドームが攻撃を受けることはここ数百年無かったと聞いたことがあります。つまりこの攻撃は今までの平穏を打ち壊す可能性を示唆しているといえるかもしれません。月だけでなく地球も敵の標的になる可能性も高いです。そうなれば地球人は地球外生命体の存在を認識せざるを得なくなります。そしてその生命体による攻撃が既に現実となっていることを知ることになるでしょう。
『学生は各自の部屋へ戻ってください。慌てることなく戻りましょう』
校内放送が部屋への退避を呼びかけます。
学生を部屋に戻すのはその生存確認を容易にするだけでなく寮の部屋はハニカム構造になっていて建物の中で一番堅牢だからだからです。
部屋に戻るとすぐさまモニターが反応し近所に住んでいたネネが映し出されました。
『大丈夫? 怪我してない?』
確かにイントルーダーからの攻撃はありましたが被害はドームだけなので僕は大丈夫だと知っているはずですが、それでも僕が心配なのでしょうか? 優しい娘です。はっきり言ってうざいです。もう構わないでほしいのですが近所づきあいもあります。うちの両親と彼女の両親は仲が良いので無碍にも出来ません。
「あぁ、大丈夫だよ(今が一番の被害の様な気がするけど)」
『なんか、余計な事考えたでしょ?』
「ハハハハ」
それから一頻り話すネネには録画した僕の顔を見せながら僕は漫画を見てました。そうです、この衛星では地球の漫画も見れるのです。普通は翻訳してくれますが、僕は翻訳無しで見てます。
「皆さん、また襲撃があるかもしれませんので暫くは部屋から出ないようにしてください。また明日は予定通り入学式を行います」
「ちっ!」
隣の部屋からココの大きな舌打ちが聞こえたような気がしますが気のせいでしょう。
と思ったら隣にココが座ってました。
「いつ来たんだ?」
「今だよ、暇だろ? ゲームでもしようぜ」
そうです、この衛星では地球のゲームがやり放題なのです。みんなアカウントを持ってます。まさかそのアカウントが地球のアカウントだったなんて知りませんでした。ウォーゾーンで最後まで残っているのはもしかしたら月の住人かもしれません。
『それ誰よ?』
あれ?
未だネネとの通話が切れてませんでした。
「友達だよ、女の友達もいるぞ(嘘ですけど)」
『え? わ、私というものがありながら…」
「いや、僕と君は何の関係も無いよね? 無関係だよね? 他人だよね?」
『酷い! これまで尽くしてきたのに!』
尽くされた記憶が無いのは健忘症だからでしょうか、アルツだからでしょうか、それともこの子が嘘吐きだからでしょうか、妄想癖があるのでしょうか。でも小さな子供に真実は告げられません。
「大変だったね。君は良く尽くしてくれたよ。でも僕には好きな人がいるんだ。これまでありがとう」
彼女は黙り込んでしまいました。これも彼女の為です。僕は彼女の為に悪者になる決心をしたのです。嘘ですが‥‥
通話がが切れました。
納得してくれたようです。
「今のお前の彼女か?」
「ただのいじめっ子だよ」
「本当か? 可愛かったなぁ」
「そ、そうか? まぁ、頑張れ応援するぞ」
「そうか、良し頑張ってみるか」
何を頑張るのだか。
子供は子供同士が一番です。
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