第2話 鈴

「それで、今日何して遊ぶんだ?」

「魔法の練習だよ。絶対内緒だぞ、子供だって思われるからな」

「‥‥ってお前まだ子供じゃねぇか!」

「ガーン!」


 記憶が蘇って数日、今まで不思議にも思わなかったことがとても不思議に思えてきました。

 例えば、僕が話しているのは人ではありません、犬です。

 白くて巨大なオオカミの様な犬なのですが人語を解し普通に話します。知識も豊富です。

 なんでも遺伝子操作で脳を巨大化し言葉と知識をインプットしたのだとか。


「よう猫、元気か?」

「あぁ、散歩だよ散歩、日課だ、この後は日向ぼっこだな」


 これは日常の犬と猫の会話です。とっても変です。


「明日、地球へ連れて行ってやるぞ」

「えっ! 本当? 嬉しい」


 以前の父の職場からの帰り道、行きたいなと漏らしたのですが父はその言葉を聞いていて願いを叶えてくれたようです。

 とはいっても、日本からアメリカに行くのにパスポート取得してとか面倒な手続きは必要ありません。車で近所の山へ行くような感じです。

 だって、30分しか掛からないのですから。

 自家用の船で地球へ行きます。ただ、船は居住区の外にある船専用のドッグに留置してあるのでそこまでは車で行きます。


「私も連れてけ、兄ずるい」


 一つ違いの妹は四歳です。言葉がまだ覚束ないのか助詞が抜けます、女子なのに‥‥ぷっ。


 本日は晴天です。いや月なのですから雲はないので常に晴天です。父と母、僕と妹の四人でお出かけです。

 居住区を出ると平原が続きます少し離れた所に別の居住区が見えます。居住区の数自体は少ないそうです。

 そうこうしているうちに草も木も生えていない山に来ました、まぁ、生えている山など無いのですが。扉が開き中に進みます。中は格納庫になっていて船が整然と並んでました。父の職場で見たのと似たような船ばかりです。翼はなくただの鉄の塊に見えます。


「これが俺の船だ。どうだ、格好いいだろ?」

「おお」


 格好いいかどうかは別としてこの巨大な物体を間近に見て感動しました。これは、前世で良くUFOと言われていた乗り物ではないですか。薄い楕円形です。周囲がガラス状なのか外の風景を映しまるでその存在を隠しているかのようです。

 船に乗り込むと格納庫の天井部分が開きました。天井扉の上に行くとそこで一時待機です。天井の扉がしまり空気を抜きます。

 その後で船の上の扉が開くことで空気が外に漏れるの緒を防ぎます。


 ゆっくりと船は上昇後、地球に向かって加速し始めました。しかし、それ程早くはありません。30万キロを30分で行くには時速60万キロの速度が必要です。しかし、表示された時速1000キロ、地球の旅客機と変わりません。300時間、つまり13日弱かかる計算になってしまいます。

 すると突然目の前に真っ黒い空間が現れたのです。船はその空間に突入しました。

 その黒い空間を通り抜けると目の前に地球があったのです。どうやら30分というのは格納庫を出て着陸する時間を含めて30分だったようです。未だ10分程しか経ってません。


「地球のネットって繋げられるの?」

「そんなこと良く知ってるな? 普通に繋げられるぞ」


 モニターにグルグルのページが表示されました。

 僕は知りたかったのです。今が西暦何年かを、僕が死んでからいったいどれだけ経ったのかを、子供と孫たちが僕の遺産を仲良く分けたのかどうかを。


 検索していくと僕が死んでまだ五年しか経っていないことが分かりました。

 そして衝撃的な記事を見つけたのです。

 

『八条家の相続争い激化、法廷闘争は続く、収束見えず』


 衝撃でした。僕の子供達は仲良くなどなかったのです。やはり、遺言は残しておくべきだったのでしょう。

 読み進めていくとさらに衝撃的な事実を知ることとなりました。


『八条鈴殺される。享年48歳。犯人の目星未だ付かず』


 殺された?

 衝撃が僕の中心を駆け抜けました。

 彼女は僕の一番の理解者でした、また僕の子供に生まれてきてほしいと願っていたのに。しかも衝撃的なのは僕が死んだ翌年殺されているのです。

 彼女の娘紗菜はまだ27歳、その悲しみは計り知れません。


「どうした、何見てるんだ?」


 父がその画面を見て不思議に思っているようです。

 そりゃそうです。父にとってはチンパンジーが喧嘩しているのを見ているように映ったのかもしれません。


「なんか面白そうだったから」

「そうか、面白かったらあとで教えろよ」


 そう言って操縦席に戻って行きました。

 まぁ、運転はほぼ自動なのですが。


 ん?

 僕の後ろから妹がずっと画面を見てます。


「どうした、これ面白いのか?」

「うん、はちじゅうけ、いさんそうぞく、たいへん」


 は?

 妹が、文字さえ覚えたばかりの妹が日本語を読めるわけがありません。


「これ私」


 彼女が指さしたのは僕の娘、殺された鈴でした。

 とても信じられません。

 しかし確かめなくてはならないでしょう。


「お前は鈴だったのか? 鈴の生まれ変わりか?」

「そう、なぜ鈴知ってる?」

「当然だ、私はお前の父だった信長だ」

「えっ、ほんとか?」

「誰にも言うな。俺達が地球人だと分かったら迫害されるかもしれないからな」


 いや、生まれ変わったのだからもう地球人ではないのですが、口から言葉が溢れ出してました。

 しかし、娘も生まれ変わっていたとは、同じ星の同じ家族に。

 僕は死ぬ間際鈴がまた僕の娘に生まれ変わってくれと望みましたがまさか妹に生まれて来てくれていたとは。

 神に感謝するしかありません。

 あ! 殺されたのは感謝しませんけど。


「娘が危ない、何とかしろ!」

「え? 紗菜か? 紗菜が危ないのか?」

「そう、紗菜危険、殺される」

「誰だ? 誰が殺す?」

「分からない、でも私殺した奴言ってた、次は紗菜だって。あれから4年、どうなってるか心配」


 くそ、まるでミステリーの様相を呈してきました。

 遺産相続をめぐり他の相続人を殺害するのでしょうか。

 一番可能性があるのは三男の借金があった陽太です。借金取りが裏の世界の住人なら相続人を減らし相続分を増やして債権を回収するつもりなのかもしれません。

 ですが、そんなことをすれば相続権を喪失してしまいます。露見すればですが‥‥

 しかし、確証はありません、強欲な長男も怪しいです。全てが怪しく見えてきました。仲は良いとずっと思ってきたのに。


 早急に地球へ転移する必要があるようです。

 父には元地球人だとは言えませんから。

 問題は、まだ転移魔法が使えないという点です。前世では使えたのですから使えるとは思うのですが。

 それに今転移出来ても五歳の子供に何か出来る訳でもありません。だから、明日から猛特訓です。前世を取り戻すのです。勇者だった頃の力を。

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