通常編

7・強制的にビギナー卒業?!

 俺は”知識豊富”から”わかば”へ名前を変えた。

(そんな名前にして、大丈夫か?)

 初心を思い出すためだ!

(おかん大好きをか?)


 前回の俺は会話のエキスパート、ギャバ嬢とホスト12人と不倫して自分の知識の足りなさを実感した。

 こんなんじゃいけない!

 F カップが遠くなってしまう!

(初めから遠いぞ?)

 自分の非をすんなり認めるスマートな男。

 これでFカップ美女も俺の虜に違いない。

(だと、いいがな)


 少し未来の自分を想像してみる。

『きゃっ! 初心者なのね。可愛い♡ わたしが色々教えてあ、げ、る♡』

(君は前向きだな)

『ああ♡ Fカップ。さいこーです!』

(むしろ、おしまいdeath《デス》!)


「あああああ! なんかやれそうな気がしてきた!」

(やれた試しがない)


 時刻を確認する。夜中の12時。

 新たな出逢いを求めよう。

 おうちに向かう、シンデレラと遭遇だぜ!


 俺はガラスの靴を履かせることを想像しながら、すごろくの箱を開けた。

 前回の場所に転生され、前々回と同じところであることに気づく。

(前回全く進んでないからね)


───深夜12時。今宵も俺は三歩く。


『ようこそわかば、三歩の世界へ』

 さあ、向かうぞ、シンデレラ。


 さて今日のシンデレラはどちらにいるのか。

 前を見る。

 ん? なんだ、今日は。


 後ろを見る。

 相変わらず、おとんが居る。

 いつかはエンカウントしてみたい。


 右を見た。

 え? ちょっと待て。


 左を見た。

 どういうこと?!


 三方から人が歩いてくる。

 一人は髪の長い……経験上オカマだ。

 一人は杖をついたおじいちゃん。

 一人は強面のお兄さん。



「えええええええ!」

 俺は焦った。

 何が起きたのかわからない。立ち往生していると、三人に話しかけられた。

「よう! お前もわかば、吸ってんの?」

「なかなかいないのよね、わかば仲間」

「わかばについて語らんかの?」

 どうやら、タバコのわかば仲間が集まってきたようだ。

 これは一体?



『わかば、類友イベント発生中! わかば、エンカウント成功! わかば、おめでとーーーーーう! これより朝までうっふん♡ 語り尽くし不倫に移行します』

「はいー?」

 俺は、わかば仲間と不倫した。


「OH!NOOOOO!!!!」

 俺は喫煙者でもないのに、わかば仲間と類友エンカウントしたのだった。


 そっちのわかばと遭遇するなんて!


 俺は三フリへの理解不足を後悔していた。

 まず、類友イベントとはなんぞや! そこから調べなければならない。

 それにしても。不倫相手は俺のはずなのに、三人が”わかば”で盛り上がっている。


「マルボロ、マイセンあたりは有名だけど、わたしは断然わかばね。渋さががちがうもの」

と、オカマ。

 パッケージの話だろうか。

「お洒落といえば、ラクダのやつだな」

と、強面。

「知っとる。キャメルじゃろ」

 俺は全くついていけなかった。

 これがFカップなら、どれほど盛り上がれたか。くううう!

 俺は盛り上がらないままに、不倫した。

 中心人物のはずなのに疎外感を味わいながら。


 失敗を糧にしようと、いつものモザイクチャンネルにアクセスする。

 今や俺にとっての、オアシス。情報の泉だ。


モザイク3:こんばんは!

モザイク1:よう、モザイク

(相変わらずモザイクである)


モザイク2:今日はどうした?

モザイク3:あの、突然質問なんですが、類友イベントについて詳しく教えていただけませんか?

モザイク1:あ、お前さんビギナー卒業したんだっけ。


 ビギナー?

 なんだそりゃ。


モザイク2:三フリにはレベルとかランクとかあるんだよ。通常は10回までがビギナーなんだけど。君、天狗になって、強制エンカウント経験してるでしょー? あれ経験すると、強制的にビギナー卒業させられちゃうのよ。

モザイク3:なんだって⁈ /(^o^)\

モザイク2:で、ランク1になると、発生するのが、類友イベント。内容は名前で決まるみたいよ。


 なるほど。名前がポイント。


モザイク3:他に、変わったシステムがあったりとかは?

モザイク1:称号を取っていくと、必殺技が使えるようになるんだぜ。俺は今、猪突猛進という必殺技を狙っている。

(三歩しか進めないのにか?)

モザイク2:お前、前にしか進まないのに。必要なのか、それ。

(ツッコむとこそこか!)


モザイク1:俺は何処までも邁進まいしんしたいんだ! そういえば、昨日、前方不注意の称号を手に入れたよ。

モザイク3:何ですか、それは。

モザイク1:禿おやじと77回不倫すると貰える称号だ。

(どんだけー!)

モザイク2:相変わらず、トチ狂った称号ばかり手に入れるな。


 と、そこへ。


モザイク103:やあ、愉快なモザイクたちよ。

モザイク1:おー久しぶり。

モザイク2:古株で5年プレイヤーだぜ。みんなにとーさんって呼ばれている。


 103、とーさんか。

(ダジャレか!)


モザイク103:ところで、二人は毎日いるな。裏で、モザチャのぬしって呼ばれとるぞ。ちゃんと仕事しとるのか?

モザイク1:自宅警備員です。

モザイク2:右に同じ。


 どうやら、モザイクの住人はニートなようだ。


モザイク103:いい加減、ニートは辞めなさい。

モザイク1:仕事辞めたからニートなんだけど。

モザイク2:ニートは辞められない。

(ある意味、間違っちゃいない)


 俺は自宅警備員にならないように気を付けなければならないと思った。

 恐るべし、三フリ。

 とりあえず俺は、名前を変えようと思ったのだった。

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