6・6回目の不倫 『今夜は乱交パーティ?!』

 俺は”経験済み”から”知識豊富”へ名前を変えた。

(毎回思うが、単純な奴である)

 名前だけでも、興奮しそうだ。

(どんな頭をしてるんだ、君は)


 前回の俺は黒髪爽やかイケメン交通誘導のお兄さんと、不倫した。

 一部の界隈を沸かせてしまった気もするが、残念ながらBL展開はない。

 諦め給えよ。

(この物語は伏線回収物語である)


 既婚歴3年、経験豊富そうなイケメンから知識を手に入れた俺はパワーアップした!

(気のせいだ)

 これでFカップ美女も俺の虜に違いない。

(まだ、諦めていなかったのか)


 少し未来の自分を想像してみる。

『きゃっ! 知識豊富なのね。素敵♡ わたしと不倫しなーい?』

(ワンパターンだな)

『ふふふ。今夜は色々試そうぜ』

(交通誘導をか?)

「あああああ! なんかやれそうな気がしてきた!」

(ポジティブで何より)


 時刻を確認する。夜中の2時。

 夜のお仕事関係のFカップを狙ってみたいと思う。

 俺は興奮で震える手を抑えながら、すごろくの箱を開けた。

 前回の場所に転生され、まだ家から数歩のところであることに気づく。

(いい加減、家から離れたまえよ)


───深夜2時。今宵も俺は三歩く。


『ようこそ知識豊富、三歩の世界へ』

 まるで高学歴の響き。悪くないだろう。


 さて今日の運命はどちらに向いているのか。

(まるで、毎日成功しているかのような言いグサだ)


 前を見る。

 4人組の夜のお仕事の方がいる。ホストとキャバ嬢だ。どうやら同業者同士で休憩がてらにコンビニに向かっているようだ。

(時々いるな)


 後ろを見る。

 相変わらず、おとんが居る。

 うちのおとんは一体、毎日何をしているんだろうか。いつ寝てるんだろうか?

 (心配はいらない。ゲーム用NPCだ)


 右を見た。

 8人組の夜のお仕事の方がいる。ホストとキャバ嬢だ。こちらはどうやら、深夜も営業している喫茶店に向かっているようだ。

なんだか、嫌な予感がした。


 左を見た。

 12人組の夜のお仕事の方がいる。ホストとキャバ嬢だ。

 まて、その人数は多すぎだろう!

 なんだ、このトラップは!


「うおおおおおお!」

 これはいきなりの乱交か⁈

(宴会だろ)


 俺は迷った。

 どこに飛び込んでも、結果は同じ気がする。いや、でも決めなければいけない。俺がどっちにも進めず、もたついていた時だった。

 前を見ずに歩いていた、12人組のホストとキャバ嬢がこちらに向かって来る。逃げ場はない!

(鬼畜ゲームである)


 ああああ! 横に広がってるから強制的に当たるうううう!

『知識豊富、エンカウーーーーーント! 経験済み、イベント発せーーーーーい! 経験済み、おめでとーーーーーう! やったね♡』

 嫌な予感が的中。

 しかも今日のナレーション、テンション高けえ。呑んでるのか?


「OH! NOOOOO!!!!」

 俺は12人の小人ならぬ会話のエキスパート、ホストとキャバ嬢と強制エンカウントした。

「あら、こんばんわ♡」

「楽しもうぜ」

 俺は12人のホストとキャバ嬢と不倫した。

(今夜は貸し切りだ!)


「君、ラッキーじゃん?」

「全然ラッキーじゃない!」


 知識豊富。

 この名前が仇になるとは、露ほども思ってもいなかった。会話のエキスパートどもに、手も足も出ず。

 そして経験値も足りなかった。彼らは、育児の話で盛り上がっている。


 育児……。

 俺は、恋人いない歴=年齢。

 Fカップを狙うこと十数年。

(クレイジーだ!)

 育児どころか、結婚も……いや、DTである。

 そんな話、ついていけるわけないだろーーーーー!


 俺は、輪の中の孤独を知った。

 そして、強制エンカウントの怖さも。


 彼らは好きなだけ宴会をし、満足して去って行った。夫婦茶碗と不倫した時よりも、なんだかむなしかった。そんな時どうすればいいのか。

 ここは一つ、いつものサイトを覗いてみることに。


モザイク3:こんばんは!

モザイク1:よう、モザイク

(みんなモザイクである)

モザイク2:今日はどうした?

モザイク3:あの、突然質問なんですが、同時複数と不倫ってしたことありますか?

モザイク1:呑み屋帰りの禿おやじ集団となら。朝までおでん食べながら、呑み明かしたぜ。


 うーん。楽しそう。

(Fカップはいいのか?)


モザイク2:俺もあるよ、近所のおばちゃん集団と。旦那の悪口炸裂で、いたたまれなかったが。

モザイク3:それも大変そう。

モザイク2:まあ、適当に流してれば終わるから。


 なるほど。俺はスルースキルを手に入れた。


モザイク3:ところで強制エンカウントって、どういったシステムなんです?


 今回一番知りたいのはこれだ!


モザイク1:ああ。あれは、天狗になってると発生するイベントだぞ? もう、発生したのか?

(とんでもない、イベントである)

モザイク2:俺もエンカウントしたことある。あのときはびっくりしたな。

モザイク3:まじすか!

モザイク1:お前、そういや地蔵とエンカウントしてたな。

(一体、どういうことだ)

モザイク2:あんときゃ大変だったよ。5体と10体と15体がやって来てさ。慌て5体に体当たりしたさ。15体とか床抜けるしな。

(重要なの、そこか?!)


地蔵か、どんな会話したらいいんだ?

(どんなって……)

俺は、とりあえず名前を変えようと思ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る