3・3回目の不倫 『え? ちょっと待って!』

 俺は名前をFカップ不倫から”不倫の達人”に変えた。

 一度もまともに成功はしていないが、名前にあやかろうと思う。

「そうだ、何事も形から入らなければならん」


 前回は隣のおばちゃんと不倫という、王道を経験した。

 延々と、どこのスーパーが安い、あそこは値引きしてくれるなどの話を聞かされ、ご近所事情に詳しくなった。

 これはこれで、楽しい不倫だったとは思う。人生に経験は必要だ。


 が、しかーし!

 俺はFカップとキャッキャウフフな不倫がしたーい!

 ピンクのハート型のジャグジーで泡をふッてするような。

(どんな世界観だ、一体)


 よし、前回の反省からだ。

 前回の敗因はやはり、後方の注意を怠ったからに他ならない。三歩目が注意どころなのは、経験で分かって来た。

 こういうゲームは、初期はイベントが発生しやすく、段々成功率が下がって振り出しに戻される。

 となればFカップ美女を狙うなら、初期段階の今だ!

 いつやるの?

「いまでしょおおおおおお!」

 俺はサイ〇人のごとく両手で拳を作り、気合を入れた。


 時刻は23時半。

 不倫には最適な時間だ。

 俺は、すごろくの箱を開けた。玄関より前へ3歩、右に3歩、前へ3歩の位置に転生される。

(100歩とかになったら歩数書いてるだけで、文字がいきそうである)


───23時半。今宵も俺は三歩く。


『ようこそ不倫の達人、三歩の世界へ』

 うん、なんかしっくりくるな。

(何を言っているんだ、一体)

「今日こそ、やるぜ俺は。Fカップ不倫!」

(がんばれ)


 まずはいつも通り前後左右の確認から。

 右を見た。

 工事中のお兄さんたちがいる。爽やか黒髪の交通誘導の青年がイケメンだ。しかし、俺が狙いたいのはFカップ美女!


 左を見た。

 おとんが居る。昨日もそうだが、こんな時間におとんは何をしてるんだ。ハニートラップか?!

(何言ってるんだ。第一に、おとんはハニー(女性)じゃない)


 前方を見た。

 居酒屋から出てきたOLらしきお姉さん方がいる。

「複数の場合はどうなるんだ? もしや、ハーレム⁈」

これはラッキーチャーンス! 飛び込むぜええええ。

この際カップよりも、人数! 気分は大富豪。


 俺は前方に進むことに決めた。

 そうだ、後方注意。後ろを見なければいけない。後方を確認すると、友人が歩いていた。

 不味い、これは不味いぞ !早いとこ進まないと。


 そう思った時だった。

「よう! 何してんの?」

 しかし、彼は未婚。仮にエンカウントしても……。

 彼が近づいてくる。

「あ、いや。その」

 俺は、友人とエンカウントした!


 イベント発生‼‼‼‼‼


「ㇷワッツ⁈」

『不倫の達人、イベント発生しましたああああ! 成功、成功です! 不倫の達人、おめでとおおおおお!』

「ちょっ、静かにして!バレるから!」

『観客一同、総立ちです! ブラボーと歓喜の声を上げています!』

「ま、まじで、ちょっと黙って!」

「何々、どうしたの? 俺と不倫する感じ?」

友人は暢気だ。そんな事より……。


「おまっ、未婚だったよな⁈ 同期で未婚仲間はお前だけ、まさか抜け駆けしたのかよ!」

「あー……。実は、10年付き合ってた幼馴染みと、昨日籍入れたんだよ」

「はあ?! 彼女居るなんて言ってなかっ……」

「海外在住で、紹介も出来なかったからさ。逢うの10年ぶりだし」

(ほぼほぼ、遠距離恋愛である)

 衝撃の事実に俺は、膝まづいた。俺だけ行き遅れ⁈

 いや、まだ先輩と後輩がいる。


「どんな付き合い方してたのか、教えろよ!」

 俺は、食い気味に友人の手を掴んだ。

 掴むつもりはなかったが、勝手にイベントが進んでいる。是が非でも、詳しく聞きたい。何せこの方産まれてから、お付き合いというものをしたことがない。Fカップ一直線の人生を歩いてきた。

(今もな!)


「リモートデートに決まってるだろ。スマホやノートパソコン持って散歩に行ったり、遊園地行ったりさー」

(想像すると、実にシュールだ)

「十年も?」

「十年前は……テレビ電話かな」

(時代を感じる)


 気づけば、自宅にいた。今日の不倫場所は自宅らしい。

「何か飲む?」

「じゃあ、ワンカップ大〇」

(どうやらカップに拘るらしい)

 友人が袋の中から一つ俺にくれる。

 今日のカップはワンカップ。いつになったらFカップに遭遇するんだ⁈ 今日はハーレム予定だったのに。


「で? 初(*´ε`*)チュッチュとかは?」

(何故か俺のPCはちゅと打つとこれが変換される。な・ぜ・だ!)

「もちろん観覧車だぜ! 王道だろ」

と、友人。

「どんな感じ?」

「んー硬くて、冷たいかな」

 硬くて、冷たい……。

(それってスマホ越しじゃ……)


「じゃあさ、彼女にリップクリームとか、買ってあげたほうがいいんじゃないかな?」

と、俺。

 (*´ε`*)チュッチュしたことがなかったため、真実に気づかなかった。

「何故に?」

と、友人。

「柔らかくなるかもしれないし」

と進言すると、

「柔らかくなったら不便だろ。スライドする時、指がめり込むじゃないかよ」

「え? めり込むくらいが良くない?」

 出来れば柔らかい方が。

 と言うより、唇ってスライドさせる感じ? 恋愛上級者の言うことは、よくわからんな。

「お前、変わってるなー」

「え? 俺?! みんな硬い方が好きなの?」

「普通はそうだろ」

 俺って、少数派だったのか……。


俺は、友人と不倫した。


───数時間後。

 一人になってから俺は、Fカップ美女の唇をスライドさせることを想像しする。

 どうなるかの想像もつかない。

 自分はまだまだ恋愛初心者であることを学んだ。

 とりあえず、名前は変えようと思ったのだった。

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