2・2回目の不倫 『弾力が! あッ』

 俺は自主規制から『Fカップ不倫』へと名前を変えた。

「規制はダメだ! 駄目のダメダメだ! ここは、本能のまま突っ走らなければ!」

 ぐっと拳を握り、空を仰ぎ見た。

 しかし、夜だった。


「この名前で必ずゲットするぜ、F カップ」

(本当にその名前でいいのか?)

 昨日はあのあと朝まで『脱・タートルネック』について、偽カップオカマと熱く語ったが、あれはあれで楽しい不倫だったと俺は思っている。


 しかし、目的はFカップ。


 俺はすごろくの箱を開けた。

 玄関より前へ三歩、右に三歩の位置に飛ばされる。


───24時。今宵も俺は、三歩く。


『F カップ不倫、三歩の世界へようこそ!』

 まだ始まっていないが、俺の士気は高まった。


 さて、どちらへ進むか。

 今日こそ決めたいぜ!

 右を見る。誰もいない。

 左を見る。散歩中の女性がいるが男性と一緒だ。

 間違えて男性にエンカウントの恐れがある。要注意だ。


 後ろを見る。うちのおとんがいる。

 さすがに実の父との不倫は避けたい!


 前を見た。

「うおおおおおお! Fカップ美女おおおおお!」

 まずい、鼻血が出そうだ。


 これまでの敗因の原因を考える。

 どう考えても、左右確認を怠ったせいだ。

 よし今日は慎重に、慎重に。

 俺は一歩目を踏み出す。たった三歩、されど三歩。

 一歩一歩が明暗をわける。


 思い出す、三歩の日々……。

(まだ、三回目である)

 何度阻まれたことか。

(二回だ)

 今日こそ! 今日こそは。


 二歩目も順調だ。

 そして、三歩目を踏み出した時だった。

「ぐはっ!」

 後ろから衝撃が!

 何故かランニング中の隣のおばちゃんが、もうスピードでぶつかってきた。 ぼよーんという衝撃と共に。


『F カップ不倫、イベント発生! F カップ不倫、成功! Fカップ不倫、おめでとう!』

 音声と、共にイベント発生!!!!!!


「ちょ、ちょっと待て」

「どうかした?」

とおばちゃん。

 どうこもうもない、ツッコミどころ満載の状況だ。

「なんで、胸に風船入れてるんだよ!」

 ぼよーんは風船の感触だ。

「そりゃ、全力疾走したら何にぶつかるかわかったもんじゃないでしょ! セルフエアバッグに決まっとろー?」

(何故、家の前を全力疾走してるかも謎である。時刻は24時だ)

「知るかっ!」


『早くイベントに移行してください』

 相変わらず急かしてくるシステム。

『Fカップ不倫、イベント発生中! 発生中!』

 まるで警報。

 しかも、Fカップではなく風船カップだ!

 俺は、隣のおばちゃんと不倫した。


───1時間後。

(漢数字と数字がごっちゃだ! そのうち直そう)


「くそう! あと、一歩だったのに」

 俺は部屋に戻り悶絶する。しかも隣のおばちゃんと不倫だなんて。

 不倫の王道過ぎるだろ!

(悩むとこそこか?)


「王道と言えば、オフィスラブ……」

 1日3歩しか進めないのに、オフィスまでたどり着くのに何年かかるんだ!

 これは諦めるしかない。

「同窓会で、不倫。これも捨てがたい」

(会場に、辿り着けばな)

「やはり、ここは攻略板を見るしかないな」

 俺は愛用のモザイクチャンネルにアクセスした。

(まだ一回しか使ってないのに、愛用もクソもあるか!)


モザイク1:俺先週、学校の先生とエンカウントしてさー

モザイク2:ほうほう

モザイク1:既婚者だから不倫だ! やったぜってガッツポーズしたらさ

モザイク2:お、おう?

モザイク1:未婚だったんだよ 既婚者って嘘ついてたらしい

モザイク2:ゲームで知る、衝撃の事実!!


「イヤな、バレ方だな、これは」

 俺もちょっと参加してみよう。

 俺は彼らの会話に参加してみることにした。


Fカップ不倫:こんばんはー!

モザイク1:おい!

モザイク2:そこの、お前。モザイクかかってないぞ!


 俺は書き込みの大変さを学んだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る