4・4回目の不倫 『ま、まさか?!』

 俺は恋愛の達人から”唇硬い”に名前を変えた。ちょっと上級者ぶりたいお年頃である。やはり、初心者丸出しはいけないよな。

(ほんとにそれでいいのか?)

「これなら、Fカップ美女も向こうから俺に近づいてくるはず」


 俺は少し先の未来を想像してみた。

『あら、あなた。恋愛慣れしてるのね♡ わたしと不倫しなーい?』

『君にはわかっちゃうんだね。もちろん、良いとも』

 ムフフ、これでFカップは俺のモノ。

(そんなわけあるか!)


 さて前回俺は、友人とワンカップ大〇を片手に不倫したわけだが……。

 ついに、最後の未婚同僚が既婚者に。ガックシ。

 10年か。俺も付き合ってみたいぜ。

(今から10年も付き合ったら幾つになるんだ?)


 だが、俺には夢と希望がある。

 Fカップ美女と不倫するという夢が。

(とんでもない夢である)


 時刻は22時。

 不倫に最適な時間である。俺は気合いを入れて、すごろくの箱を開けた。

 前回の続きの場所に飛ばされる。


───22時。今宵も俺は三歩く。


『ようこそ唇硬い、三歩の世界へ』

 気分は上々だ!

 今日こそ決める! F カップ不倫。

(毎回言ってるな)


 前を見た。

 会社の先輩がいる。俺は見なかったことにした。


 左をみる。

 またまた、おとんがいた。なんのトラップだ!


 後ろを見た。

 ガチムチの警官が職質をしている。なかなかイケていた。

 筋肉の作り方を伝授して欲しいところだが、今日こそFカップを狙いたい!


 右にかける。

「Fカップううううううう!」

(懲りないやつである)


 俺は右に進むことにした。

『唇硬い、三歩右に進みます』

 慎重に慎重に。

 前後左右を確認。今日は大丈夫そうだ。

 しかし、最後まで油断はならない。

 一歩目、二歩目。順調だ。


 三歩目を踏み出した時だった。

 腰の辺りに衝撃が。

「え?」

 俺は何かにエンカウントした。

『唇硬い、エンカウントしましたぁ! 唇硬い、イベント発生! 唇硬い、おめでとう!』

 俺はファンファーレに混乱しながら腰の辺りを見た。


 そこに居たのは何かを大切そうに抱えた男の子。

 どう考えても、未婚だ。バグか?

 いや、待てよ。

「こんばんは、少年」

「こんばんは! お兄さん!」

「君、何を持ってるの?」

 今までの経験から、人間以外ともイベントが発生することは確認済み。まさか、子供と不倫なんてありえない。

 合法ショタの可能性も捨てきれないが。


「これ、パパとママにあげるの!」

「パパとママ?」

「んとね! 夫婦茶碗って言うんだって」

ま、まさか?!

(そのまさかである)


「Oh!noooooooooo !!!!!!」

イベント発生!!!!!!


俺は、夫婦めおと茶碗と不倫した!



「あ、あのさ………」

 いろいろ話しかけるも、夫婦茶碗は無言だ。

(当たり前である)


「むなしい。もう、この際(*´ε`*)チュッチュするしかない」

 俺は意を決して茶碗に手を添え口元へ。

「うん、硬くて冷たい」

 俺は茶碗を、座布団の上へ戻した。

「俺のファーストキスの相手は夫婦茶碗か。でも、これで大人の仲間入り」

 もう、恋愛上級者を名乗っても良いのでは?

 なんだかいい気分になって来た俺は、愛用のモザイクチャンネルへアクセスした。


モザイク3:こんばんは!

モザイク1:よう、モザイク

(みんなモザイクである)

モザイク2:今日はちゃんとモザイクだな

(どういうことだ)

モザイク3:あの、突然質問なんですが、生き物以外と不倫ってしたことありますか?


 やはりここは情報を仕入れておくべきと、俺は判断した。


モザイク1:俺はないな。しょっちゅう禿おやじと不倫するが。

(それは前にしか進まないからだ)

モザイク2:俺はあるよ。鳥のフンと。

モザイク3:はいいい⁈

モザイク2:オシドリのフンが落ちてきてさ、イベント発生よ。あんときゃ初心者だったから、パニックになったけど。今なら冷静に不倫できる。

(どんな意志表明だ!)


 お、奥が深いな。三フリの世界は。

(三歩行けば不倫の略である)


───1時間後


 俺は、不倫するなら生き物の方が良いと学んだ。

「やっぱり、無口な相手だと侘しいな」

(無口どころじゃない)


「今日は一歩、大人の階段を上った。これで婚期が一歩俺に近づいたぜ!」

(不倫を望んでいる時点で、婚期は遠い)

「そうだ! 友人に報告しないと」

 俺は昨日の不倫相手に、電話をかけることにした。

(まるで二股のような言い方だ)


「あ、もしもし?」

『おう、どうした』

「俺、ついにファーストキスしたぜ!」

『おめでとう』

「キスって、硬くて冷たいな。お前の言ってた通りだった」

『は? 何言ってんの、お前』

 俺はとりあえず、名前を変えようと思ったのだった。

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