降りしきる雪をすべて玻璃に
降りしきる雪をすべて玻璃に-1
光雪の前に二人並んで座す。此処は雪女の郷の一族が揃う屋敷の最奥の間だった。二人を見守る形で大勢の雪女たちが広間に在席し、雪月と華乃子の婚姻の宣誓を見守っていた。
「光雪さま。わたくし雪月は、鷹村華乃子殿と番うこと宣誓し、一族の結束と繁栄のために尽力することを誓います」
光雪の前で深くこうべを垂れ、雪月は華乃子と結婚することを宣誓した。華乃子も続く。
「雪月さんを助け、添い遂げることを誓います」
華乃子も、雪月を倣って光雪の前で深くこうべを垂れた。光雪が広間中に響き渡る声で、宣誓を受諾する。
「雪月の婚姻はこれによって成された。みなは雪月と華乃子を支え、一族の繁栄に力を尽くせ」
凛とした声に、同席していた全ての雪女たちが深く礼をした。その上座には沙雪も居て、彼女はまだ少し悔しそうだった。
雪山に置き去りにされたときのことを、雪月は桜島から帰る道すがら謝罪してくれた。なんでも千雪と光雪から助けに行くのを止められていたそうで、あの場で華乃子があやかしとしての力を発揮できなければ、沙雪の婚約者の立場はますます強固なものとなってしまっただろうとのことだった。
「それでも最終的に華乃子さんを助けに行かない選択をしたのは僕の意思でしたから、謝罪のしようがないと思っていました。あの時は本当にすみませんでした」
深く詫びてくれる雪月に、そんな理由があったなら仕方ないと、華乃子は微笑んだ。千雪も光雪も、結果的には華乃子が寛人と決別するための力を授けてくれたようなものだし、理由さえわかれば彼らの選択も納得できる。
「あの時、水の鎖が凍らなかったら、私は寛人さんに連れていかれていたかもしれませんから、私のほうこそ先生にお礼を申し上げなくてはならないわ」
華乃子がそう言うと、あれは機が味方したんです、と雪月は言った。
「太助くんが彼の顔を引っ掻いたでしょう。あの時に術が緩んだのを、隙をついて攻撃したのです。太助くんには助けられましたね」
そうだったのか。現世に帰ったら、二人にも礼を言わなくてはならない。
「しかし跡目の地位を得ていてあれほど良かったと思ったことはありませんでしたよ。本当に何が益するか分からないですね。今回ばかりは、本当に良かったと思います」
心底ほっとしたように雪月が言う。
華乃子を得るために、跡目相続から身を引いて火入れをしようと決心した時には思いもしなかった展開だったのかもしれない。でも、華乃子もこの結果で良かったと思っている。華乃子に会うべく妖力を付けて大人になった雪月が、華乃子に会うまでの片恋を小説にしたためていなければ、華乃子は雪月に恋をすることはなかっただろう。
華乃子も、雪月が跡目だからこそ沙雪や郷のみんなに対して力を示さなければならなかった。今回のことでいくらかはそれが認められたが、安定的に妖力が使えるようになるには時間がかかるだろうが、努力が必要なことだと思う。
「私も、郷で認めてもらえるように力を使えるようにならなくてはなりませんね」
笑って言うと、雪月は光雪が居る間は居住を現世と幽世、両方に持つから当分はその必要はないと言った。それがもしかして、人として生きていきたいと思っていた華乃子のことを想ってのことだとしたら、雪月はなんてやさしいんだろうと思う。
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