寛人の野望-20


その後は華乃子と雪月の間で少しもめた。雪月が火入れを続行すると言って聞かなかったのだ。どんどん火口へと降りていく雪月を、華乃子は必死で説き伏せようとしていた。


「先生、危ない真似は止めてください! 先生が命を懸ける必要なんて、何処にもありません!!」


焼け焦げた雪月の着物の袖を引っ張る。しかし非力な女性の華乃子の力では、男性の雪月の歩みは止められない。


「雪女の魂を抜かなければ、貴女を雪女の郷の跡目騒動に巻き込んでしまうのです。だから……っ」


「先生……」


雪月は華乃子を郷の跡目騒動に巻き込んでしまうから火入れをするんだという。それはつまり、華乃子と人として添い遂げようとする意志があることを意味する。


やっぱり雪月は言葉が足りない。でも、足りない分よりも一生懸命に華乃子のことを考えて行動してくれたことが分かった。気づけなかった色々なことも、雪月の中では考えづくのことだったのだろう。そう理解したら、もう迷うことなんてなかった。


「先生が私を想ってくださるのと同じくらい、私も先生のことが大事です。先生の魂ごと、私は愛してみせます」


はっきりと、雪月に向かって華乃子は言った。


華乃子にとって雪月は、あの物語をくれた大切な人だ。華乃子を初めて幸せにしてくれたあの物語。あの物語の先に自分たちの未来が拓けているなら、華乃子は其処を雪月とともに歩きたい。雪月があやかしでも良い。これだけ言ってなお火入れをし、人間になるなら、なってでも全然かまわなかった。だって華乃子は、雪月の心を愛しているのだから。


雪月はそんな華乃子に、参りましたね、と何時もの頼りない笑みで立ち止まると、こう言った。


「貴女に助けられてばかりの私ですが、貴女を魂の限り幸せにすると誓います。私に付いて来てくださいますか?」


「先生はいつも私のことを幸せにしてくださいます。ここで『はい』という返事以外、何とお返ししたら良いのでしょうか……」


居場所を見つけた。これ以上ないくらいに、嬉しい居場所。


愛する人の隣という、かけがえのない其処を、誰にも渡さない。


この気持ちは力が強いからとか、半妖だからとか関係なく、心が求めたもの。


だから安心して貴方に委ねられる。


私の髪一本、涙ひとしずくまで、貴方に捧げます……。

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