寛人の野望-19

ふと、雪女の郷でのことを思い出す。光雪が千雪と話していた時、あの時光雪は華乃子のことを『水の御霊が操れる』と言っていなかったか。『龍久』とは誰のことは分からずじまいだけど、郷でも『水の御霊』を唱えて吹雪を排したのだ。氷の塊も元は水だし、さっきは水の鎖に呼び掛けて駄目だったから、これを試してみたら良いんじゃないだろうか。


「貴様、邪魔なんだよっ! 雨と共に消え失せろ!!」


寛人が怒りの豪雨を降らせようとして両手を振り上げ振りかぶると、華乃子は雪月の背中から前に出て、寛人に向かって本能が告げる言葉を声を張り上げて唱えた。


「我は水の御霊を宿す者なり! 水の御霊よ、怒りを忘れ、我がしもべとなり、元の場所に帰れ!!」


すぅと空中に宣誓するかのように指先を高く上げ、振り下ろすと、雪月と寛人の間に会った大きな氷の塊も、寛人が降らせようとした豪雨も、全ての水がその場にとどまり水の球になると、すうっと蒸発して消えていった。華乃子は雪月の隣に並び立ち、その水たちの様子を驚きの目で見ていた寛人にきっぱりと言った。


「ごめんなさい、寛人さん。私、貴方とは結婚しません」


そう言って、深く寛人に頭を下げてその場を去る。雪月に肩を抱かれて華乃子が去った後、取り残された寛人は呆けた後、去っていく華乃子の後姿を憧憬の眼差しで見つめ、独りぽつりと呟いた。


「水の御霊を操られてしまっては、傍系の僕は敵わないよ、華乃子ちゃん……。力を超えて惹かれる心を持つ君が、今、少しだけ眩しい……」



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