第13話『トラディショナルオークツリーのリサ』

「ちょっと、NWSいる――?」

 風雷の八月愛隣の四日、土曜日。

 例によって会議のために集まっていた、NWSリーダーたちの元を訪れたのは、

トラディショナルオークツリーのリサだった。

 集会所の窓の桟に両手をかけて、気軽な調子で声をかける。

 中からオリーブが出てきて応対する。

「どうしたの、リサ」

 リサは栗色のカールした長い髪をひっつめ髪にしていた。

 じんわりかいた汗を拭って言った。

「ああ、オリーブ。この間受注した、民話の里の民芸品テクスチャーの整理について、お知恵を拝借したいのよ。アロンいる?」

「待っててね……って、中入ったら?」

「いいわよ、会議中でしょ。邪魔しちゃ悪いし」

「遠慮しなくていいよ。今、ティーブレイク中だから」

「そう? じゃあ遠慮なく」

 リサが玄関から回って、中に入った。

 そこにはナタル・トゥーラ・ポール・タイラー・アロン・ルイスの六人が円卓を囲んで座っていた。

「お邪魔様——!」

「おう! 仕事の話だって?」

 ポールが聞くと、リサがアロンの隣の席を勧められながら言った。

「そうなのよ、やっぱりわかんないことが多くてね。アロンが詳しそうだったから、一通り説明してもらえないかと思って」

「民芸品テクスチャーの整理だったな。どこがわからないんだ?」

 アロンが身を乗り出して聞いてくれる。

 そして、リサと応酬する会話に、テクスチャマッピングとかレンダリングとか3Dポリゴンといった専門用語が飛び交った。

 もちろん、他のメンバーには何のことやらさっぱりわからない。

 しばらくして、アロンの説明を眉をしかめて聞いていたリサの表情が、満足そうな笑顔になった。

「ありがとー! これでウチのメンバーに迷いなく説明出来そう」

「まだ説明してないんだ?」

 ナタルが聞くと、リサはオリーブが淹れてくれたアイスコーヒーを飲んでホッとしながら言った。

「そうなのよ、ウチもメンバー若いじゃない? だから、何かに精通してる人間が少ないのよ。そしたら、代表のショーンさんも詳しくないっていうじゃない。なもんで、私がある程度まで勉強して把握することになったわけ」

 ショーン・エターナリスト。

 トラディショナルオークツリーの代表で修法者。

 40代の中年の女性で樹木医をしている。ショートヘアが似合う、さっぱりした気質の人物だ。

「そりゃショーンさん、樹木医だし、守備範囲外だろうなぁ」

 ポールが二度頷いて言った。

「オービット・アクシスのテクスチャブレイン機能を使うのよね?」

 トゥーラはさすがに少しは知っていた。アロンが答える。

「うん。テクスチャってのは本来は織物の質感を表す言葉なんだけど、それをオービット・アクシスのテクスチャブレイン機能を使うと、質感や凹凸面なんかを3D映像で再現できるんだ。3Dプリンターを使用すれば、サンプルの物質化も可能だけどね。民芸品テクスチャーってことは、博物館の展示品の保存とかじゃないかな」

「そう、それ。藁馬って知ってる?」

「七夕に禊として川に流す、藁で作った馬のことね」

 トゥーラが即答した。

「さすが。その藁馬がカエリウスの民芸博物館に、かなり古い物から展示されてるんだけど……劣化が激しいんだって。他にも木製の農具とか木彫りの人形やお面とか、とにかく山ほどあるのよ。だから、テクスチャブレイン機能を使いこなさなくちゃね」

「大変そうだけど、楽しそうな仕事だな」

 ルイスが言うと、リサが笑った。

「そうでしょ、やってみたいでしょ? あんたはそう言うと思ったわ」

 ルイスとリサはNWSの初仕事の時に、一緒の班になって気心知れていた。 


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る