第12話『仲直り』

「フィリップさん、ヤガミさんに限って逃げたりしないよ。葛藤してたとしても必ず俺たちに力を貸して、仕事の完成まで付き合ってくれるって!」

 後ろから声がしたので振り向くと、イサクが元気いっぱいの笑顔で言い切った。

「なんだイサク、もう復活か?」

 よく見るとキーツも隣で笑っている。

「?」

 フィリップが二人を交互に指差した。イサクが頷く。

「共同戦線張ることにしたんだ」

「あっ、そう……へぇ」

「仲直りしたの?」

 オリーブに聞かれて、キーツが端的に事情を説明した。

「もともと大したいざこざじゃなかったんだ」

「ふーん、偉い偉い!」

 オリーブにかかっては、まるっきり子ども扱いである。

「腹パンパンで仲直り――兄弟ゲンカか!」

 ポールが突っ込む。

「ちょっとみんな、せっかくイサクが台詞を決めたのに」

 ナタルがフォローに走る。

「悪りぃ、イサク。なんだって?」

 タイラーが聞き返す。

「ヤガミさんは逃げたりしない……どうしてそう思うの?」

 トゥーラに聞かれて、イサクは一気にボルテージを上げた。

「それは……ヤガミさんが怨霊退治の腕を錆びつかせないために、修法陣の研究を続けてるからなんです。時々、俺にレクチャーしてくれるんですよ。「おまえみたいな熱血野郎にはもってこいの仕事だ」って言って。こう見えても俺、フラッシュシックル閃光の鎌の免許皆伝ですから」

「おおーっ」

 フラッシュシックルとは――?

 光の精霊の加護を得た、主に悪霊などを浄霊する鎖鎌のこと。

 専門的で扱いが難しいとされ、武芸に通じたものが好んで習得する技術である。

 みんなから拍手喝采を浴びて、エヘラッと笑うイサク。

「前衛部隊にもってこいだな」

 タイラーが言ったが、フィリップは額に手をやった。

「おまえだけが向いてるんじゃな……」

「NWSがやるよりゃいいよ。そういう人材皆無……おっと、タイラーがいたか」

 ポールが気づいたが、タイラーは首を振った。

「いや、いくら何でも専門外だ。俺が精通してるのは万武の赤だしな」

 万武の赤とは――?

 万世の秘法の裏の闘技。

 六大精霊界の加護を得た闘技であり、赤の他、白・銀・青・紫・緑がある。

 赤とは火の精霊界を表し、火の精霊の特性を生かした闘技である。

 そして、白は光の精霊界を指す。

 つまり、フラッシュシックルは万武の白の闘技ということになる。

「やっぱ、付け焼刃は無理?」

「——当たり前だ」

 ポールの言葉に、タイラーは意味深長に続いた。

「でも、NWSもそうだけどさ、仕事に取り掛かる前に講習したり、ない技能は習得したりするよ。シンプルハートディグニティは元気な人が多いんだから、俺たちよりはよっぽど向いてるし、そこはヤガミさんの指導次第なんじゃないの」

 ポールが言い募ると、フィリップは片手に顎を載せた。

「結局、そこか……」

「根気よく説得するんだね……適応団体がいなかったことにしてもいいし」

 アロンが言うと、両膝をパーンと両手で打った。

「よし、ヤガミさんに直談判だ! 帰るぞ、イサク」

「じゃあな!」

「おう!」

 イサクがキーツに威勢良く挨拶して、二人は集会所から出て行った。

 後に残されたNWSのリーダーたちが言うことには――。

「若さかねぇ」

「若さだよ」

「おじんくさ」

「なにを――っ!」





























 

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