第4話『ポール、青ざめる』

「うん?」

 オービット・アクシスで個人の進捗棒グラフを見ていたポールは、5時間で92本と異常に遅れているミルラの棒グラフに目を留めた。

 ミルラの進行プログラムを確認し、現在地を透視したが当人がいない。

 ざわっと背筋が凍りつく。

 落ち着け、落ち着け……進行プログラムじゃなくて、オービット・アクシスのGPSでミルラ本人の現在地を確かめれば……。

 震える指で確認すると、ミルラはガーネットラヴィーンの東外れに移動している。

 ほうっと安堵の溜め息をつく。

 ところが、その辺りを透視しても、ミルラの姿を捉えられない!

「どうしたの? ポール」

 キーツが真っ青なポールに気づいて、テレポートでやってきた。

「キーツ、ミルラちゃんが……ミルラちゃんの姿が見えないんだ」

「ええっ⁈」

 ポールはGPSを確認して、ガーネットラヴィーンの東外れにいることは突き止めたが、透視が利かないというのだ。

 と、そこまで聞いて、キーツは脱力して言った。

「もぉー、落ち着いてよ。ガーネットラヴィーンの東外れといえば、サバラスさんの小屋があるところじゃない」

「あ……」

 改めて安堵の溜め息をつくポール。

「でも、何だってサバラスさんの小屋に……?」

「さぁ……さっきの今で用があるとは想像しにくいよね」

 訝る二人の前にミルラがテレポートで現れた。

「すみませんっ、ポールさん」

「どうしたの、ミルラちゃん。心配したよ!」

 ポールが両手を差し出したが、まさか抱きしめるわけにもいかず宙で止めた。

「ごめんなさい。お腹の調子が悪くなって、サバラスさんの小屋でトイレをお借りしたんです」

「えっ?」

「サバラスさんに⁈」

 意外すぎて後が続かないポールとキーツ。

「サバラスさんに暖炉に当たらせてもらったり、熱々のミルクを飲ませてもらってだいぶ良くなりました。それから、サバラスさんが民話の里に連絡を取ってくれて、防寒着を一式用意していただけたんです。もう仕事に戻れます!」

「……」

「あの……ポールさん?」

 ぼんやりしていたポールを、キーツが肘で突っついて我に返らせる。

「あ、ああ……もう無断で現場離れちゃダメだよ。身体慣らしながら仕事してね」

「はい、申し訳ありませんでした!」

 勢いよく頭を下げ、笑顔を残してミルラは現場に戻っていった。

「はぁ……肝が冷えたぜ」

「ホント、大事じゃなくてよかったよ」

「どう思う?」

「サバラスさんが思っていたような人じゃなくて、NWSに心を開いてくれたような気がするね」

「仕事の様子を透視して、考えを改めてくれたのかな」

「たぶんね……ミルラちゃんにできる限りのことをしてくれたんだから、

お礼を言いに行かないと」

「キーツ、頼む、一緒についてきて!」

「いいよ、こうなったのは連帯責任だからね」

 と、ここでマルクからテレパスが入った。

(ポール、どうした? ミルラ君の進行プログラムが更新されてないって、ナタルから連絡があったぞ)

(ごめん、マルク。実はミルラちゃん、サバラスさんのとこでトイレ借りたみたいで……)

 ポールから顛末を聞いて、マルクが妥当な判断を下す。

(防寒対策が甘いのは、ミルラ君だけじゃないかもしれない。ポール、メンバー全員に外出許可を出して、寒さに備えさせろ。もうランスさんとルイスさんは同様の措置を取った。夕方にかけてますます寒くなる、能率は後回しだ)

(了解……!)

「そういうことだから、キーツ」

「わかった、あとで話そう!」

 ポールとキーツは慌ただしくテレポートした。

 その様子を透視していたサバラスは、無精髭をしごいてポールとキーツの会話を心地よく聞いた。

 なかなか気持ちのいい連中だ。儂がNWSのことを内心どう思っているか、気づいたかのう。

 できる限り不興な顔をせねばなるまい。

 本当は説教なんか抜きにして、酒を傾けたいがもう少し様子を見るか。

 あと2時間。

 サバラスは透視しながら、NWSの往く先々の不便を取り除いていった。















 

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