第2話 黒焦げの出会い

 わたしの名前は葉月はづき美火みほ、もうすぐ19歳。

 地元の高校を卒業した後、就職か専門学校に行くかを悩んでいただけの何の取り柄も無い日本人。


 得意なことといえばレンジの火力をお好みに調節して、お肉の焼き加減を抜群にするくらい。でもほとんど最大火力にして黒焦げ状態でお肉を食べるのが好み。


 さっきまでわたしは調理専門学校のパンフレットを眺めながら、いつものようにステーキを焼こうと最大火力にして肉を焼こうとしていた。


 それなのに――どういうわけか別の世界に転移しちゃった。


 自分の格好は見事にラフな部屋着で、かろうじて白いソックスを履いてるくらい。足下をよく見ると、何故かお肉の代わりにわたしがお皿の上に立っている状態。

 

「ええ~と……? 魔女? ハティって?」

「とぼけないでくださる? あなたはわたくしの召喚術によって呼ばれた、れっきとした黒魔女ハティだわ! そうに決まってる!!」


 これはあれだ……失敗を認めないタイプで高飛車なお嬢様ってやつだ。そして見事に失敗して、魔女でもない日本人なわたしを召喚してしまった的な。


 わたしの方は割と冷静に周りをよく見れているのに、呼び出したお嬢様は怒りで我を忘れて周りもわたしもよく見えてない。周りから判断するに、ここは異世界の魔法学校でおそらく授業中。


 それも試験か何かの真っ最中で、目の前で怒り狂ってるお嬢様は召喚で炎の精霊でも呼び出すつもりがあったんじゃないかと予想する。それなのに何故かわたしを召喚して、かなりパニクってる状態。


「あ~……ちなみにここはどこでしょう?」

「ハァッ!? ハティのくせにそんなことも知らないの? ここは魔法名門ユーバリフじゃない! わたくしに召喚されたら本来喜ぶべきことなのに!」

「喜ぶ? え、どうして?」


 確かに黒いコートを着た目の前の彼女は、綺麗な金色の髪に大きな目をしているお人形さんのような外見をしてるけど、わたしにそんな趣味は……。


「ふふん、名門出のわたくしとこれから寄宿学校で共同生活をするの! そうすればわたくしは立派な魔法士になれるし、あなたは名声を高められるわ! それなのにそのふざけた格好で現れて……やる気あるわけ!?」

「ええっ!? 寄宿学校で一緒に生活? え、あなたと?」


 自分の部屋で気楽にお肉を焼いて食べようとしてただけのわたしに何が起きたの。

 

 それに確か寄宿学校は全寮制。黒魔女ハティだか何だか知らないけど、よく分からないままわがままそうなお嬢様と暮らすなんて冗談じゃないんだけど。

 

「それ以外に何があるわけ? わたくしたちは魔法士を目指す卵! そのわたくしたちを見守り、教え、成長させる為には、それぞれで黒魔女を呼び出す儀式をする必要があるわ。わたくしが手始めに召喚儀式に成功したというのに……あなた、本当に黒魔女ハティなの?」


 もちろん違うし、そもそも魔法なんて使えるはずがない。どうやら儀式のことがあって他の生徒はもちろん、教師らしき人とは距離が離れてるようだしひとまず脱出しといた方がよさそう。


「ごっ、ごめんなさいっ!! わたしが悪いので、今すぐ出て行きます!」

「――あっ! ちょっとあなたっ!!」


 とにかく無我夢中で近くの扉を開け、外を目指した。寄宿学校ということは敷地も広くてそう簡単に外に出られそうにない――そう思っていたのに、案外簡単に外に出られた。


 でもソックスを履いてるだけで靴は無いし、そもそもラフな格好なせいで外を歩く人からの視線が半端ない。何が何だか分からないけど、とにかく道だけは整備されているのでそのままひたすら走りまくった。


 しばらく走って疲れたわたしは膝に手をついて息を整える。息を大きく吐いて吸ってを繰り返し、上半身を起こして周りを見回そうとすると、道の真ん中に何かがうずくまっているのが見えた。


 追っ手でもなさそうなので、恐る恐る近づくとそこにいたのは――


「――びっ、美少年!?」


 顔はよく見えないけど、サラサラな蒼黒色の髪をさせた少年はきっと容姿端麗。そんな美少年がどういうわけか道の真ん中でうずくまっている。


 何か困っていそうなので顔を近付けて声をかけようと近付いたその時。


「お腹が……お腹が減った。だから――お前を喰わせろ!!」

「うえええっ!?」


 まさかの狼人間に食べられてしまう?

 

 せっかく逃げてきたのにそんなのはあんまりだ。そんなことを思いながら、走馬灯のようにお肉を思い浮かべていると、何となく手の平がやけどした感じに熱くなった。


 思わず耐えられず、両手を思いきり振り回しているとすぐ近くで、ボンッ。という音が聞こえた。


「へ? 何か焼けた臭いが……?」


 瞬きをして目を開くと、目の前には黒焦げになった美少年の姿が。


「アハハハハッ!! 俺を焼くなんて大した女じゃないか! でも残念だったな! 俺にはこれごとき火力で焼き死ぬことは無いし、焼いて食われるほど弱くないぞ!」


「え、そんなつもりは……というか、あなたは?」


「俺はスコル! 天狼スコルだ! 俺を焼くなんていい度胸じゃないか。気に入った! お前について行ってやる! お前、名は?」


 天狼スコル……何か物語で聞いたことがあるような。

 とりあえず美少年な彼に名乗らせたし、わたしも名乗らないと。


「わ、わたしは~、ハ……ハティです。多分」

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