第3話 目指す道は焼け野原?

「多分ハティ? 何だよ、自分のことが分からないのか?」

「い、いやー来たばかりなので、自分が何者なのかもよく分かってないかもなぁと……」

「……アハハハハッ! 面白いな、お前!」


 あ、あれ、もしかして気に入られた?

 黒焦げになりながら楽しそうにしてるなんて、この子もしかしてすごく強いのかも。


 うずくまって獲物を待っていたとか気になることはあるけど、悪い子じゃ無さそう。

 それにしてもまだ手が熱いままなのが気になる。


 とにかく手を振り回して冷やさないと。

 そう思って両手を思いきりぶらぶらと動かしていたら――


「――はわぁっ!?」


 自分の意思と関係無く、辺り構わない広範囲な炎魔法が発動。全く自覚が無いのにもかかわらず、しかも魔力を消費した感じを受けないまま、とにかく周りを燃やしまくっている。


「おいおい、すげぇな。ハティはアレか! 黒魔女なわけか!」

「と、止まらないいいいぃぃ~!!」


 よく分からないけど少年スコルを黒焦げにした直後から、ずっと手の平が熱い。その状態が止まらずに、炎魔法が勝手に森や大地を次々と焦がしていく。


「何だ、魔女のくせに自分で魔法をコントロール出来ないのか? ……ったく、しょうがねえな」

「ひぃええええぇぇぇ!! 止めてぇぇぇ!」

「なるほど。威力はあるけど未熟な魔女ってわけか。そういうことなら……よし、ハティ! 気が済むまで燃やしまくれ!」

「ええぇ?」


 スコルはそう言うと、炎魔法を浴びたまま苦ともしないでその辺に寝転がってしまった。


「今は多分アレだ。溢れた魔力が開放されて、放出したい状態になってるはずだ。そのうち勝手に疲れて止まるだろうから、お前はこの場から離れずに燃やしまくれ!」


 溢れた魔力と言われてもピンと来ないし、全く止められそうに無いんですけど。

 そんなことを思っているうちに、みるみるうちにさっきまで見ていた景色が違う光景に変わっていく。

  

 幸いにして近くを通りがかる人の姿は確認出来ず、おそらく森に潜んでいたであろう獣たちがお肉に姿を変えてしまったような香ばしさだけ感じ取れる。


 ◇


「はひーはひぃー……」


 時間にしてどれくらい経ったのか分からないくらいに、ようやく魔法が出なくなった。

 それと同時に、とんでもない疲労感が全身に重くのしかかる。

 

「おっ? 終わったか。魔力を出し切っても衰弱を見せないのは大したもんだな! 未熟だからなのかもしれないけど、成長の見込みはかなりありそうだ」

「は、はひ?」

「おかげで手ごろな肉にありつけた。ありがとな!」

「ええ? お肉!? どこどこ? どこにお肉が?」

「ここだ」


 スコルは自分のお腹をポンと叩いて、満足気な表情を見せた。


「……ということは、もうない……?」

「そういうことだな。言っちゃなんだが、いくら肉が好きでも獣の丸焼きはおすすめしないぜ?」

「あううぅ……そ、そんなぁぁぁ」

「ま、おかげで少し力を取り戻したけどな!」


 少年姿のスコルはそんなことを言いながら、何度も握り拳を作っている。

 

「あれ? 少し背が伸びたように見えるような……」


 目の前で話をしているだけなのに、ほんのちょっとの時間に成長期?

 それともお肉を食べたら徐々に大人になっていく感じなのかな。

 

「別に肉を喰ったから成長したとかじゃないぜ? 俺の元々の姿はもっと大人だからな。常に腹を空かせてるせいか、しょっちゅうガキの姿になっちまうだけだぞ。ハティはアレだろ? まだ子どもなんだろ?」


 すごい強い力を持つ天狼だから、大人の姿を維持するのも大変って意味なのかな。


「ち、違いますよー! わたしは19歳だから、れっきとした……」

「何だ、まだまだ全然お子様じゃないか」

「むむぅぅ……」


 子どもとも大人とも呼べない微妙な年頃だけど、見た目が少年のスコルに言われたくない。

 でも美少年だから言われても嫌じゃないけど。


「それよりも、そろそろ落ち着いたか?」

「え?」

「これからどこに行きたいのか聞かせてみろ。っと言っても、まぁ……今は何とも言えそうにないけどな」


 スコルが指し示す景色を眺めると、見事に一面焼け野原に変わっていた。


「こ、こんな……これ、わたしのせいで?」

「大したもんだと思うぜ? 自覚が無くてもこの威力は見込みがある!」


 何の見込みなんだろう。もしかして何にも知らないわたしに、魔法の使い方でも教えてくれるつもりがあるのだろうか。


「え、でも、あなたはあの……」

「俺のことはスコルでいいよ。お前のこともハティって呼んでるし」

「そ、そういうことなら」

「……ハティのように未熟な黒魔女が外を出歩くとなると、毎回焼け野原にされそうだからな。それは人間どももきついし、獲物どもも黒焦げになりまくりになっちまう。だから俺がついて行ってやるよ!」


 逃げるようにして魔法の寄宿学校を出て来たとはいえ、戻ろうと思えば戻れそうだったはずなのに。

 美少年な天狼スコルに気に入られちゃった以上はそのとおりに動くしかなさそう。


「それってつまり~?」

「ハティは俺に魔法制御を教わる。俺はハティに肉を焼いてもらう! どうよ?」

「ええぇ? で、でも、わたし焼くことしか出来ないですよ?」

「今はそれで十分だ。そのうちそれ以外の魔法も使えるかもだからな。一緒に行こうぜ!」


 本当の姿が大人なら見てみたい気もするし、今さら寄宿学校に戻れない。

 炎魔法以外が使えるようになれるのも期待したいし、とりあえず彼と旅をするしかないか。


「そういうことなら、よ、よろしく」

「よろしくな、ハティ!」

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