第7話 エリクサー量産

 ゴブリン100匹で、馬車を襲う。


「こいつらどこから湧いて来た」

「きっと魔王軍だ」

「俺達死ぬんだ」


 馬車の護衛はみんな逃げていった。

 残ったのは奴隷商人だけだ。


「お前、何者だ? 魔人か?」

「うるさい黙れ。奴隷の檻を全て開けろ」

「そうすれば、助けてくれるのか?」

「俺は殺さない」


 奴隷商が檻の鍵を開ける。

 お目当ての小前田おまえだを見つけた。


「おい、お前、一緒に来るんだ」

「やだ、放して」


 抵抗する小前田おまえだの耳元に助けに来たと日本語で囁いた。

 抵抗が止んだ。


「ゴブリンの餌になりたくなかったら、奴隷達は全員付いて来い」

「ちょっと待って。荷物を取って来る」


 小前田おまえだが自分の荷物を取り返し、俺達は奴隷達を引き連れてその場を後にした。


「あなたは誰?」


 小前田おまえだが尋ねた。

 俺は布を取った。


「奇遇だな小前田おまえだ

「食い物を寄越せぇ。えっと、波巣流はっする君だっけ。」

「会うなり、出てきた言葉が食い物かよ。俺の名前は波久礼はぐれ史郎しろうだ」

「そうだったかな、えへへ。三日も何も食べてないの。じゅる」


 小前田おまえだは涎を垂らしながら、俺ににじり寄る。

 俺を肉の丸焼きかなんかと勘違いしているのに違いない。


「食い物をやるから涎を拭け」


 飯を食いながら小前田おまえだに話を聞いた。

 生徒会長の野神のがみ勇清ゆうせいが勇者と聖騎士のダブルジョブで、みんなの指揮を執ってる。

 これは前と一緒だ。


 小前田おまえだに聞いた話では野郎はそうとう遊んでいるらしい。

 酒池肉林だそうだ。

 前の時と一緒だ。

 そうだ、勇者の物語は多い。

 何か勇者の物語で、カタログスペック100%したら、弱体化できないかな。


 小前田おまえだは職業が錬金術士で女の子のパーティの回復役を任されたんだが、大枚叩いて買った最初のレシピ本が曲者だったようだ。

 見せてもらったら神の如き品が作れると書いてあるけど、材料はどこにでもある普通の物。

 ここに来るまでギルドで薬草採取もやったから、どんな物かは分かる。


 小前田おまえだは頑張ってレシピの通りに物を作ったが品質が低くてパーティのお荷物になっていたらしい。

 それで材料費を借金して、奴隷になったらしい。

 前回の時は奴隷になった小前田おまえだ野神のがみが偶然見つけたように装うんだ。

 それで小前田おまえだを買って性奴隷に落とした。


 これに味を占めた野神のがみは次々に女生徒を毒牙に掛けた。

 今回は最初の出鼻をくじいたぞ。


「このままだと小前田おまえだは逃亡奴隷だ。大手を振って歩けない」

「えっやだ。なんとかしてよ」


「俺がなんとかしてやるよ」

「騙して、奴隷にしたりしないわよね」


「しないって」

野神のがみったら酷いんだよ。闇金みたいなのを紹介して。安全な金貸しだと言っていたのに」


「レシピ本は持っているか?」

「ええ、さっき取り返した荷物に」


「レシピ本とポーションを出してみろ」


 ぶつくさと野神のがみに対して呪詛の言葉を紡ぎながら、小前田おまえだは地面の上にそれらを並べた。


「カタログスペック100%。鑑定してみろ」


 光がポーションを包みポーションの色が変わる。


「鑑定。こ、こ、これ、え、え、エリクサーじゃない。やばいよ、襲われちゃうよ」

「エリクサーを金に換えて、小前田おまえだの借金を何とかするぞ。自分自身を買う事も出来る」

「やった。大金持ち」


 ゴブリンに人間を襲わないように言って森に帰した。

 そして、一緒について来た奴隷達と街のギルドに入る。


「これ、売りたいんだけど」


 俺はエリクサー十本を受付嬢前のカウンターの上に出した。


「鑑定したいのですが、よろしいでしょうか」

「よろしく」


 しばらくして血相を変えて受付嬢が戻ってきた。


「ギルド長がお呼びです」


 俺は念の為にギルド職員規約をいつでも出せるようにしてから、受付嬢の後について行った。


「お前さん何者だ」


 会うなりギルド長は言った。


「来訪者です」


「来訪者は遊んでいて、形ばかりのモンスター討伐しかしてないって聞いたが」

「俺達はまともです。真剣に勤労してます」

「まあ、いい。エリクサーはまだ作れるのか」


 その質問は想定済みだ。


「材料が貴重なんで無理だ」


「そうだよな。現物が手に入っただけましか。一本金貨千枚で引き取ろう」


 一緒について来た奴隷達の身分も、なんとかしてやった。

 生活費を渡すと、俺達の手元には、ほとんど残らなかった。


 エリクサーを売ってからが酷かった。

 ギルドからの強制依頼はましな方で、貴族からの横槍が凄まじい。

 小前田おまえだの来訪者だと証明する国から貰った短剣を出して事を収めたが、不味いのは俺でも分かる。


 逃げるように次の街へ旅立った。


小前田おまえだ、俺達が使う分の他にはエリクサーはもう作らないでおこう」

「そうね」


 前回の時、小前田おまえだは、怪我した俺にポーションをくすねて使ってくれ事がある。

 くすねたのは、ばれたが、俺の名前は一言も言わなかった。

 そういう事が何度もあった。

 感謝している。

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